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   ◆ ◆ ◆  デスクに座るのは白衣の女。  パソコンには受信したメールが表示されている。要約すれば、白衣の女のお陰で素晴らしい葬儀ができたという、感謝のメール。  白衣の女はコーヒーをすする。 「あ゛ぁーやっぱりエンバーマーは天職だわー」  ふと、自分をフッた交際相手のことを思い出す。曰く、この仕事は汚いんだとか。  一時はそれで酷く落ち込んだがものだが━━ 「━━まあ、仕事に理解のない奴はクソね。他の男、捜そぉ♪」  ◆ ◆ ◆ 『それでは出発しまーす!』  車掌の青年はいつものように特急電車を運転する。 ━━ガタンガタン、ガタンガタン……。  揺れる身体。  生き生きとした表情。  やはり彼は、  電車が好きだ。 「♪〜」  ◆ ◆ ◆  夜。  刑務官の男はスーツに着替え、帰路につく。  戸建の自宅に着けば妻が出迎えてくれて、まだ小学生になったばかりの息子、娘と4人で夕食を食べる。  食事も終わり、風呂にも入り、リビングのソファーで一服していると、妻がやって来て言う。 「あなた、やっぱり部署変えてもらってよかったわよ」  ちょこんとソファーへ座る。 「でも出世コースからは外れた。稼ぎも少し減った」 「充分よ。以前のあなた、自殺しちゃうんじゃないかってくらい落ち込んでたでしょう? 毎晩お酒も凄かったし」 「……まあなぁ」  あの轆轤首(ろくろくび)の件の後、男は異動願いを出したのだ。出世が望めないことと、年収が下がることを告げられたが、男はそれを受け入れた。  だから男は死刑囚と関わる機会が無い。  絞首刑の執行ボタンだって押さなくていい。  そうしてストレスから開放され、幸せを得たのだ。 「時々考えるんだよ、ただ逃げただけじゃないかなって」 「逃げてもいいんじゃない? ダメなの?」 「いや、駄目ってことはないんだろうけど」 「じゃあ、いいんじゃない?」  男は、それもそうか、と納得する。 「そうだ、今度友達を2人連れてきてもいいかな」 「いいけど。どんな人なの?」 「ひとりは車掌やってる奴で、もうひとりは……なんというか、医学と葬儀関係の人?」 「……どこで知り合ったの?」
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