1章 ようこそ天上界

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一方、海中に没したチーミンは、生死の境をさまよっている。 おしゃれとはがまんであり、がまんの象徴である織官の彩衣は、遊泳に向かない。 手足を掻くほどに、水面は遠ざかる。 差し込む赤い星影は、燃える水晶のように明るい。息苦しさはとうにすぎ、水の重さが冷たくのしかかり、意識が欠けてはじめていた。 天河と地海は通ず――天の河と地の海は通じている。 朦朧とする脳裏に、ふと、そんな創世の古詩のかけらがよぎった。 国祖・織女神の故郷は天つ星の河のほとりだという。 天より地上に降り立った織女神。その女神に寵された手を持つ者が――織官が、地上の海から天河に還るのは、ごく自然な帰結かもしれない。 すべてが闇に沈む前、チーミンが最後に考えたのは、そんなことだった。 ★★★ 乗客の不在に気づいた漕ぎ手が、血相を変えて王宮に、織官失踪の報を寄せるまで、まだ随分あり―― 昼間よりも大きくなった妖星が、黒い海面に燁燁たる赤光を投げかけている。 この国の守護たる織女星を、侵すように。
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