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それからも、俺の気に入ったものは取り上げる、あるいは壊すということを、幼馴染は続けた。誰も見ていない、二人きりになった時を狙って。
最初は、俺のことが好きで気を惹きたいのかと思っていた。でも、今は、おそらく違うのだと思っている。ただ、暇つぶしに俺をなぶっているだけ。そして、自分の思った通りに反応しない人間を、許せないだけだ。俺に対して何か執着はあるのだろうけど、幼馴染が抱いているのは、少なくとも俺の中の好意や愛という概念とは別のものだ。
現在の実家に引っ越す前、両親と新しい家では猫を飼おうと約束していた。すごく楽しみにしていたのに、幼馴染がネコアレルギーで、かわいそうだからやめようと諭され、約束は反故にされた。
俺はむしろ幼馴染に会いたくないのに。
本の世界に逃避した。本なら破られても直せるし、読んだ記憶までは取り上げられない。そもそも幼馴染は本に興味がないから、比較的被害も受けにくかった。
正しい未来を予言しているのに信じてもらえない女性の話を読んだ。ギリシャ神話だ。運悪く神に気に入られてしまったばかりに、碌な目に合わない。俺に未来を予知する力はないが、その絶望はわかる。
誰にも信じてもらえない、カッサンドラ。
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