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 早く、ここから立ち去らないと……と思う反面。オルフレット殿下の声が聞きたい。私とオルフレット殿下は見つめあったまま、沈黙が続く――のだけど。 〈こ、このチャンスをいかして、ロレッテお茶に誘うか? いや、嫌われているボクが……ロレッテをお茶に誘ってもいいだろうか?〉 (オルフレット殿下の可愛いが終わって、今度は私をお茶に誘いたいと言っている……)  表の表情と、なかの言葉が違いすぎて頭が混乱する。 〈ここはダメで元々だ、この機会は逃さない……よし、ロレッテをお茶に誘おう!〉  そう決めた、オルフレット殿下の瞳に力が入る。 「ロレッテ嬢、今日は天気がいい、テラスでお茶をしないか?」 〈しまった、緊張で声が裏返ったが、誘えた……言えたぞ〉  クールな印象の見た目に反して、なかは可愛いオルフレット殿下。  このお誘いに私が『はい』とお受けしたら、オルフレット殿下の中の声は、どんな反応をするのかしら? 喜んでくださる? それとも……私は鼓動を早くしながら会釈した。 「えぇ喜んで、オルフレット殿下」 「……」 〈やはり、ダメ……えっ、喜んで? いいのか⁉︎ では、早速テラスに行かなくては!〉 「ロレッテ嬢、行こうか」  オルフレット殿下が差し出した手に、私は自分の手を重ねた。 〈やった、やったぞ、ロレッテに断れなかった!! くぅー嬉しい。久しぶりのロレッテと二人きりだ……何を話そうかな、ロレッテに話したいことは沢山ある〉 (まあ、いつも笑わない『氷の王子』と呼ばれるオルフレット殿下が、お茶の誘いを受けただけなのに……なかは、子供のような喜びよう)  そうだ。  私はオルフレット殿下が今、どのような様子なのか気になり横顔を盗み見れば、隣で珍しく口元を緩ますオルフレット殿下がいた。 (表に出てしまうほど、私とのお茶を喜んでくれているの?) 「ロレッテ嬢、今日は暑くなく過ごしやすいな」 「ええ、そうですわね」 〈嬉しい、ロレッテと久しぶりのお茶だぁ――!〉   (まぁオルフレット殿下、落ち着いてください)  こんな調子の、オルフレット殿下にエスコートされて、テラス席へと移動した。  ❀  オルフレット殿下にはテラス席だと聞いていた、しかし用意されていたのは、王族しか入れない学園の場所。そこにお茶の席が用意された、殿下と二人の空間だった。 (困りましたわ) 〈椅子に座るロレッテは可憐だ。ああ、ボクに微笑むロレッテもいい。今度は書庫で読書もいいなぁ〉   「ロレッテ嬢、お茶が入ったよ」 「ありがとうございます、オルフレット殿下」 〈紅茶を飲む姿もいい〉 (……だ、誰か、オルフレット殿下の声を止めてください。近くの警備の騎士、殿下の側近、離れた位置にいるメイドの方でもいいですわ) 〈フフ、ボクの目に狂いはない。ロレッテは苺のケーキが似合っている……あぁ、大きな苺をロレッテに食べさせたい〉 (これより大きい苺は口に入りませんわ)  と、オルフレット殿下を見ても穏やかに微笑んで、向かいの席で紅茶を飲んでいる。  なかの、オルフレット殿下の声はますます弾む。  誰も、オルフレット殿下の声は止められない。 〈今日のロレッテのドレス姿、似合っているが……少し胸が強調され過ぎではないか? ロレッテの胸はボクだけの胸だ〉 (まあ! オルフレット殿下の胸ではありません) 〈いつか、その胸に触れてみたい〉 (!)  衝撃的なオルフレットの思いを聞いてロレッテは驚き、手を滑らせ、静かな庭にガシャッと紅茶のカップが音をたてた。 「大丈夫か? 火傷はしていないか? ロレッテ嬢!」 「へ、平気ですわ……オルフレット殿下、失礼しました」 〈よかった、火傷はしていないみたいだな。あ、ロレッテの口元に、苺ケーキのクリームが付いている。ボクが触れてとったら、ロレッテは怒るだろうか?〉 (口元にクリーム? ああ、涼しい顔をしながら……なんて事をお考えになっていらっしゃるの) 「ロレッテ嬢、クリームが付いている。このハンカチ使って 「え? ありがとうございます」 〈ほんとうは……触れたかった〉 (オルフレット殿下!!)  聞いている、こっちが恥ずかしいです。 〈どうした? ロレッテの頬がほんのりピンク色? まさかボクを見て照れているのか?〉 (いいえ、違います。殿下の声に照れているのですわ……きっと)
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