落花流水

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恋に落ちる瞬間を 選べたらいいのに それならきっと 誰よりも先に 私はあなたに恋をする  自宅の玄関に入ると、彼が私の後に続いた。 ドアが閉まり、真っ暗な部屋に施錠の音が響く。 ヒールを脱ぎかけた私の体を(すく)い上げるように、彼が腕を回してきた。 この状況で、今さら何をするつもりかなんて聞いたりしない。 だって、私はそれを望んでいたのだから。 「ごめん」  彼は私を背中から抱きしめて、頬にキスをした。彼の吐息が私の頬にかかる。 「好きなんだ。君のこと…」 「うん…、嬉しい」  私は彼の腕にしがみついた。 好きな人の腕に抱かれて愛を囁かれる。誰もが夢見る瞬間だろう。 私は、彼のひだまりのような優しさに救われた。 あの時の彼は、私の前に立ち込めた闇に差し込む、一筋の目映(まばゆ)い光だった。 薬指にリングが()まった左手で、彼は私の髪を撫でた。(あふ)れる優しさに泣きそうになり、彼の胸に体を預けてシャツを握りしめた。 「君はよく頑張ってる。僕は知ってるよ」  彼が伸ばした手を、私は迷わずに(つか)んだ。 私にもわかっている。 自分が今、道を踏み外したことを。 それでも私を見つけ出してくれた彼に、感謝の気持ちでいっぱいだった。
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