だいなし、だいなし。

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だいなし、だいなし。

 そのおまじないのやり方は、極めてシンプルだ。  まず、白紙のA4コピー用紙を用意すること。  赤いサインペンや油性ペン、ある程度太い線が引けるペンならなんでもいいので用意すること。  そして、誰も見ていない部屋で、夜の十時から朝の五時の間に行うこと。人に見られてしまうと失敗になるらしい。 ――一人部屋でほんと良かったー。  僕はにやりと笑った。ちょっといいところのおぼっちゃんだった父に、いいところのお嬢さんだった母。そこそこ裕福な二人は一軒家を建てて、僕という一人息子を大層可愛がってくれている。僕が部屋に入るなと言えば絶対に入ってこないし、そもそも二階の広い部屋を一人で贅沢に使わせてもらっているという上京。うるさい兄弟姉妹がいたらこうはならなかったことだろう。  小学生のうちは十時就寝、という約束を破り、両親が寝静まった頃合いを見計らってベッドから這い出す。  そして予め用意しておいたコピー用紙とペンを準備。あとはスマホを見ながら、悪魔を召喚できるというおまじないをやるだけだ。  ネットにあった魔法陣とやらをペンで書き写し、一番上には自分の名前を書く。そして、魔法陣の周辺に十個ペケを書けば完成。  あとは、おまじないの言葉を口にするだけ。 「カンブレラ、カンブレラ、カンブレラ、カンブレラ。アイサイさま、アイサイさま、お越しください。カンブレラ、カンブレラ、カンブレラ、カンブレラ。アイサイさま、アイサイさま、お越しください……」  まるで女子みたいなこのおまじないに、それでも僕が手を出した理由はただ一つ。  クラスの大嫌いな奴に、ぎゃふんと言わせてやりたかったからだ。
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