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私が店の前に辿り着くと、佐藤はもう来ていた。ぼんやり空を仰いでいる。
「ひさしぶり」
「うん」
佐藤の返答はそっけない。そのまま店内に入る。
「何食べたい?」
「……牛丼アタマの大盛り」
あの時、佐藤はシンプルな並盛を頼んだはず、そう思いながら向き直る。
「広瀬が、旨そうに食ってたから、俺も食いたくなった」
私の疑問を察したかのように淡々と言われた。
「わかった。牛丼アタマの大盛り、二つ頼もう」
席に着く。カウンターなので、お互い顔は前を向いたままだ。
「最近あんまり見かけなかったけど、元気にしてた?」
「うん、まあ、ぼちぼち」
「何か変わったことあった?」
「いや、特には」
佐藤に会話を続けようという意思があまり感じられない。一緒に過ごしていた頃は、何話せばいいかなんて考えたことなかったのに。
今、二人の間には、ただ、沈黙が重くのしかかっている。
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