ゆるして、ゆるして。

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ゆるして、ゆるして。

 じりじりじり、と窓から入る太陽の光が照りつける。私の全身を、脂っこい汗がぐっしょりと濡らしていた。  喉が渇く。自分の手を見つめ、スマホを見つめてため息をついた。スリープモードの黒い画面は、うっすらと私の顔を映し出している。丸くて幼い、ツインテールの女子小学生。ああ、まだだ、と小さく息を漏らす。 ――やっぱりまだ、駄目なの?  スマホのスリープを解除することもなく、布団から這い出した。今は何より優先して、喉が渇いて仕方ない。キッチンで母が包丁を使っている音がする。リビングでは父が、一足先に朝ごはんを食べている。  見たくもないのに、彼がつけているテレビの画面が視界に入ってしまった。また天気予報だ。ずらずらと並んだお天気のマークが表示され、女性の天気予報士の声が響く。 『今日は、全国的にいいお天気が続くでしょう。お布団も外に干して大丈夫そうです。昨日より気温も上がりますので、水分補給はこまめに行ってくださいね!』  ああ、忌々しい。私は窓の外を見る。青い青い空が、ベランダの向こうに広がっていた。どれだけ目をこらしても、雲一つ見当たらない。  昔の自分なら、晴れていたらそれだけで気持ちが明るくなったものだ。でも今は、腹立たしいとしか思えなかった。  いや、もはや腹立たしいというより、焦る、という方が正しいだろうか。晴れが嫌いなわけじゃない。雨が好きなわけでもない。それでもただただ願ってしまう。 ――お願い、雨、降って。お願いだから。  祈ると同時に、ごくん、とねばっこい唾を飲み込んだ。喉が渇いていることを思い出し、慌ててキッチンに駆け込む。母が驚いたように私を見て、こら、と一言叱ってきた。 「ちょっと、カヤちゃん!まずは朝起きたらおはよう、でしょ?」 「……ごめんなさい。おはよう」 「よろしい。今日もいいお天気ですって。傘持っていかなくていいみたいよ。良かったわね」 「……うん」  何もよくなんかない。余計なことしか言わない母を睨みつつ、私は冷蔵庫からお茶のペットボトルを取り出したのだった。
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