9人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
彼は、目の前にいる弟のことなど、見えていないかのようだった。陸を置いてけぼりにして、ペラペラと喋り続ける。
「まあ、まさか殺そうと思ったわけじゃないんだろうけど。頭突きで殺人なんて、確率が低すぎるもんな。ちょっとした憂さ晴らしのつもりだったんだろう。ちょうどその時、機嫌が悪かったのかもしれないし。大体そんな理由で、部屋から出て行こうとする竜ニさんを呼び止めて、そばに来させたんだろうなぁ。『背中に何かついてる』とか言えば、ベッドの脇にしゃがんで見せてくれるだろ。そして無防備になったところをガツンと一発——」
「やめてよ!」
辰の言葉をぶった斬るように、陸が叫んだ。
陸はもう耐えきれなくなっていた。声を抑えることも忘れて、兄に掴み掛かった。
「証拠なんてないでしょ!? ちょっと挙動不審なだけで、身内を人殺し扱いとか、あんまりだよ!」
「証拠というには弱いかもしれないが、一応それっぽいものはある」
陸は、目を見張った。
「今朝の妙の様子からみると、まだ額に痕跡が残ってると思うぞ。ある箇所に手鏡をうんと近づけて、そこばかりを凝視していたからな。さすがにドアの前からじゃ、目にすることは出来なかったが」
最初のコメントを投稿しよう!