真相

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 彼は、目の前にいる弟のことなど、見えていないかのようだった。陸を置いてけぼりにして、ペラペラと喋り続ける。  「まあ、まさか殺そうと思ったわけじゃないんだろうけど。頭突きで殺人なんて、確率が低すぎるもんな。ちょっとした憂さ晴らしのつもりだったんだろう。ちょうどその時、機嫌が悪かったのかもしれないし。大体そんな理由で、部屋から出て行こうとする竜ニさんを呼び止めて、そばに来させたんだろうなぁ。『背中に何かついてる』とか言えば、ベッドの脇にしゃがんで見せてくれるだろ。そして無防備になったところをガツンと一発——」  「やめてよ!」  辰の言葉をぶった斬るように、陸が叫んだ。  陸はもう耐えきれなくなっていた。声を抑えることも忘れて、兄に掴み掛かった。  「証拠なんてないでしょ!? ちょっと挙動不審なだけで、身内を人殺し扱いとか、あんまりだよ!」  「証拠というには弱いかもしれないが、一応それっぽいものはある」  陸は、目を見張った。  「今朝の妙の様子からみると、まだ額に痕跡が残ってると思うぞ。ある箇所に手鏡をうんと近づけて、そこばかりを凝視していたからな。さすがにドアの前からじゃ、目にすることは出来なかったが」
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