犠牲から犠牲へ、魂からの繋がり

4/6
31人が本棚に入れています
本棚に追加
/164ページ
「明美を見付けたぞ」  と怒鳴る声が運転席から聞こえた。フロントガラスから前方を見ると、錆びたトタン屋根の小屋があった。その中に慌てた様子で逃げ隠れる女性の後ろ姿が確認できた。見たことのある車の姿を見て、焦って小屋の中に逃げたのだろう。だがこれは悪手だ。小屋には扉が一つしかないように見えるので、逃げ場を完全に失ったことになる。  行くぞ、と成子の旦那に手で合図されて由樹とアンジェラは小屋の中に突入した。  扉を開けると中はがらんどうだった。誰も使っていないらしく、道具も何も置かれていなかった。そんな空間の中に、明美が一人隅っこでうずくまっていた。 「おい、よくも逃げやがったな。来い。帰るぞ」  成子の旦那が明美の着ている黒のTシャツの襟首を掴んで小屋から引っ張り出そうとしていた。 「嫌だあ。無理い。もう死ぬから許してえ。行きたくない行きたくない。死にたい死にたい」  と、明美は恐怖から超音波のような甲高い声で叫び散らしていた。体を無理矢理引き摺られながら、両足をジタバタさせて必死に抵抗していた。  外に連れ出されてから、明美は車の後部座席に押し込まれた。由樹も乗り込むと、車内は大便の甘みが含まれた彼女の体臭によって鼻がもげそうになった。明美の体からガス漏れのような音がする。体が壊れているようだ。  成子の自宅に戻ると、明美は成子と対面した。明美が玄関の三和土に立ったまま、成子の顔を見て動けなくなっていた。薄暗い廊下に成子の白い顔が浮いて見えた。
/164ページ

最初のコメントを投稿しよう!