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 揶揄われてるんだと思った。  それほど翔琉の話は唐突だったし、寝耳に水の話だった。  驚いた俺はただ翔琉を見つめるだけで、暫くして翔琉の方もバツが悪くなったのか、  「ぃや…冗談だって。」 と力なく笑った。  「ば、馬鹿っ。変な冗談言うなよ。」  何をこんなに驚いているのか。自分でもよく分からない。  ただ黒い瞳に浮かぶ真剣な眼差しに理由もなく心が震えた。  その震えに恐れ、慄き、心の内を暴かれるような、そんな漠然とした不安がその言葉を「冗談」として片付けたがった。本気にはしたくなかった。  「ははっ、そんな焦るなって。もしかして悠、本気にした?」  「する訳ないだろっ。」  お互い本音は分かっているのに、どちらも一歩を踏み出さない。そんな自分に都合のいい解釈の危うい雰囲気を破ったのは、酒の注文を取りに来た店員の間延びしたような間抜けな声だった。  「追加でご注文どうですかぁ?」  2人とも焦ったようにアルコールの追加を頼んだ。  ちょっと酔わないとこの雰囲気を乗り越えらないようとでも言うように。  「あっ、そうだ。エリーちゃん帰ってくるんだってな。」  無理矢理変えた話題に翔琉はすんなりと乗ってきた。  「ああ、美月ちゃんから聞いたのか?帰るって言ってもこっちの知り合いに会いに来るってだけらしいぞ。期間も1~2か月じゃなかったかな。」  「えっ、そうなの?俺、てっきり帰国してこっちで暮らすのかと思ってた。」  「あ~それはない。」  「どうして?」  良かった。さっきの話はきっと衝動的に出てきた言葉なんだろう。疲れているみたいだし、会社とは無関係な所でゆっくりしたかったのかも知れない。  第一、俺の家には父もいるし、妙齢の美月だっている。今はそんな時代じゃないと言っても結婚してもいない男女が同じ屋根の下に暮らすなんて外聞が悪いだろう。
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