私、捨てられた

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私、捨てられた

 数瞬前まで絶望に染まっていた少女の顔は腹部から伝わる激痛に思わず頬が緩む。 「これでやっと終わる」  栗色の三つ編みが風になびき、少女は満足気な表情を浮かべて、 「ありが……とう」  心からの感謝を伝え、倒れる。 ◇◇◇    大陸北端に位置し強力な魔物や精霊が暮らす上級冒険者でも立ち入ることは滅多にない魔の森、その入り口付近では性別問わず同性異性を虜にしてしまう美貌の少年が一振りの剣を鞘から抜き放っていた。 「今までご苦労だった」  私は3年苦楽を共にしあらゆる困難を乗り越えて来た所有者から一瞬にして捨てられた。  彼の手には先ほどドラゴンから助けてくれたお礼として精霊より贈られた白金の聖剣が輝く。   「この剣があれば俺はさらに……くくく」  クロードは不気味に笑い、新たな聖剣デュランダルを鞘に刺し去っていった。一度もこちらを見る事なく。 ◇◇◇ 勇者パーティー「聖者の集い」    レアジョブ「剣聖」を持つクロードを筆頭に「賢者」マリア、「重戦士」バズ、といずれもレアジョブ揃いのパーティー。  クロードは14歳の時にヘーデル山脈に出没したレッドドラゴンをソロ討伐。  その功績から史上最年少でS級冒険者になると同時に勇者の称号と聖剣である私(エクスカリバー)が贈られた。  そして勇者就任と同時に賢者マリア、重戦士バズと出会いパーティーを結成。 「僕たちの目標は魔王軍に苦しむ人々を助けること」  クロードの宣言のもと私達「聖者の集い」は始動した。  始動当初は王国各地を飛び回り魔王軍や魔物と連戦する忙しい日々を送った。  生傷の絶えない日々。それでも助けた人たちからの感謝の言葉が何よりの支えだった。  しかし…… 「勇者様。ぜひ私どもの商会に支援させてください」  私たちの活躍を聞きつけた大商会が支援を申し出できた。   「帰ってくれ」  商人の魂胆が見え見えだったクロードは相手にしなかった。  でも、活躍に比例して支援を申し出る商会の数が増えていくと謝礼金といって多額の金貨が集まるようになった。 「なあ、みんな……最近連戦続きで装備を整える金もろくにない。どうだろう。ここはこの金を使って装備を整えるというのは」  今思えばこの一言がきっかけだった。  一度甘い蜜を吸ってしまえば、ダメだとわかっていても歯止めが効かなくなる。  1日の終わりには必ず素振りや模擬戦を行っていたのがいつからか商人達との会食の時間へと変貌し、私は宿に1人で待たされることが多くなった。 「大丈夫。今だけ……みんな根は優しいからきっと目が覚める時が来る」  そんな私の希望観測とは裏腹にクロード達はどんどん変わっていった。  酒に溺れ、助けると誓った人達を邪魔だからと蹴り飛ばし、冒険者仲間達の事は「ゴミ」と見下すように。  それでもいつか、いつか前の3人に戻ってくれる時が来る。  しかし……  私は魔の森に1人捨てられ、現在ワイバーンのくちばしに挟まれて空を飛んでいます。  初めて空を飛んだけどいい気持ち。雲はなくどこまでも晴れ渡る夜空に満点の星空。宝石箱とはきっとこのことを言うのだろう。 「は、はくしょい!」  星空のあまりの綺麗さに感動していたら突然ワイバーンがくしゃみ。  くちばしからポロッと地面へ向けて落下。  意外にもくちばしから落ちる時の一瞬の浮遊感にはドキッ!としたが、下から受ける風が心地良いのと慌てて私を探すワイバーンの姿が面白くて和んだ。  それから気がつくと朝になっていて私は地面に刺さっていた。  私の周りには小鳥やリス、野うさぎが集まり小さな木の実を食べていた。  それは1日に3回繰り返され朝昼晩になると集まってくる。  そして集まってくるのはリス達だけではなく屈強な男、剣士風の少年少女、冒険者パーティーなどなど動物が来ない時間は必ず誰かしらがやってきては私を引き抜こうとするが抜けずに立ち去っていく。  そんな日々がどのくらい続いたのか。  この場所で過ごすようになり15度目の月が登った夜、 「このまま朽ちていくのかな……」  半ば諦めていた時、 「おお!あったあった!噂の呪われた剣!」  暗闇の森から1人の冒険者風の女性が酒瓶を片手に千鳥足で私の方へと歩いてくる。 「よっしゃ!いっちょいったりますかぁ!」 と、女性は柄を握ると手に力を込めて。 「ほいさぁ!……って、あり?抜けちった」  いとも容易く私を抜き放った。
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