扉の部屋

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扉の部屋

 実家の台所を出た先にあったのは、暗い空間。四畳半より狭い。ここはどこ? 戻ろうと思ったが、後ろにあったはずの引き戸は消えていて、ただの黒い壁になっていた。炊けたご飯はどうしよう、早く父と叔母を呼んでこないと、などと考えていると、空間がわずかに明るくなった。見れば、正面には氷と雪に覆われた扉、右手には錆びた看板が打ち付けられた扉、左手には白地に黒の丸が数個描かれた木の扉がある。三つの扉をしげしげと眺めていると、足元からごぷん、と音がした。どうやら私は透明な分厚い板の上に立っているらしく、その下では暗い色の水が波打っていた。ここでぼんやり立っていても埒が明かない。私は目の前の冷たい扉に手をかけた。
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