88人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
プロローグ
俺、死んだのかもな。
両足で立ったのは久しぶりで、そう思った。
どこまでも真っ白い空間で、俺は足の裏に地面を感じている。
嬉しかった。自分の足で立つことはもう二度と叶わないと思っていたから。
ふと、視線に気づく。
見上げると、狐の面をつけた少年がいた。
白い着流しに、白い長髪を一つにまとめて宙に浮いている。死神のように思えた。
「――俺、死んだのか?」
「いいえ、まだですよ」
落ち着き払った静かな声色は、この状況を面白がっているように聴こえた。
「あなたは神々の遊びに巻き込まれました」
「遊び?」
「賭けですよ。あなたがどちらを選ぶか」
少年はふっ、と笑う。
「選択肢は2つ」
少年は人差し指を立てた。
「1つ、このままあなたの足を直す」
「えっ」
「どうせ夢かなにかだと思っているでしょう。
神の力で、全力で走れるまで回復させましょう」
「走れる……本当か」
足を見る。この不思議な世界でも、痛々しい傷跡は残っている。
もう長いこと走っていない。風を切って、自分の力でどこまでも速く駆け抜けたあの頃。戻れたらどんなにいいか。ずっと抱えていた胸の切ない痛みが、少年の言葉で希望へと転化する。
だが沸き立つ俺をよそに、少年は冷静な声で続けた。
「選択肢はもう1つ」
さらに中指も立てる。
「足は直らない。走るどころか、このまま一生まともに歩けません。寿命も十年削ります。
その代わりに――」
最初のコメントを投稿しよう!