32人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
「あ」
突然、何かに気がついたような顔つきで、友達の椎名くんが呟いた。
見たい映画があるから一緒に行こうと誘われたある日の日曜日。
ちなみに椎名くんにはまだこれがデートだという認識は多分ない。彼にとっては私はただの仲のいいクラスメイト程度だと思われる。
まあ、私としても同じような感覚なんだけど。
一緒に映画見て、お茶して、一緒に帰る。それだけの関係だから。
友達だよなあ、やっぱり。
見たい映画も『星名くんはどうもしない』っていうB級コメディーだったし、色気とか全くないもんな。
パンフレット買うかどうか迷って結局やめた時だった。
椎名くんの呟きに、ふと振り返ると、彼の目線の先にいた女の子も同時に振り向いた。
「あれ……椎名くん⁉︎」
「やっぱ、みっちー?」
女の子はきゅるんとした大きな瞳でサラサラロングヘアーをなびかせ、妖精のような足取りでこっちにやってきた。
誰だろう。可愛いな。
「久しぶり。元気?」
「元気! やだあ、椎名くん前より男らしくなってるー!」
ペタッとさりげなく椎名くんの腕を触るこの女。
明らかに椎名くんとの親密度をアピールしているようでなんかムカつく。
鼻にかかる声も何だかわざと女の子らしく作ってるって感じがする。
「こっちの人は? もしかして、彼女?」
「藤川は……」
「ただのクラスメイトですけど」
彼女じゃないって椎名くんに言われるのも癪だったから口を挟んでしまった。
うーん、何だろう。心がトゲトゲしくなっちゃうな。
B級コメディー見たせいかな。
最初のコメントを投稿しよう!