身の程知らず

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身の程知らず

「好きです」 そう言われたのは、突然かつ初めての事だった。 私という人間は中身の芯の様なものがないもので、その言葉を他人さまからいただけたということだけで舞い上がってしまい。 こちらこそ、好きになりました。 相手は、ほとんど面識のない同級生。 いや、私の方は彼を知っている。 この学校に通っていて彼を知らない人なんていないと思う。 背が高く容姿端麗そして、人気者。誰にだって優しくて、穏やかな性格の彼からは想像できないくらい運動神経もよく、スポーツ大会では女子の”キャーキャー”と騒ぐ声が耳をつくほど・・・。 同じ学校に通い同じ学年にいるけども、クラスも違うし地味な私なんか彼の視野に入っているなんて思いもしませんでした。 「よく意味が分からないのですが・・・」 と、身の程を知っている振りをして、ぬか喜びしない程度の返事を敬語で返した。 すると、彼には似合わない自信のなさそうな表情で 「ずっと見てました。話したこともないけど、君の事を好きでいました・・・という意味です。」 と、彼らしい真っすぐな、そして少しだけ照れくさそうな口調で、なぜか敬語で言い切った。 凄いと思った 私にはできない。 話したこともない人に告白なんて・・・。 私は頷くことしかできなかった。 すると、彼はキラキラした笑顔でこちらに一歩近づき 「それってOKだよね?」 と、嬉しそうに神がかった笑顔をまき散らした。私はその神々しさに目をそらし、もう一度うなづいた。 嘘でも照れでも”NO”なんて私なんかが貴方に言うわけないでしょ! 地味で内弁慶な私は、心の中ではこんなにおしゃべりなのに、それを表に出せていない様な、どこか何かが欠けてしまっているようで、自分に何も魅力を感じることができていなかった。 自分ですら自分が好きでないのに、どうして彼はそんな顔でそんな風に”好き”だなんて言ってくれるのか?不思議だった。 もしかしたら、からかわれているのかな?そんな風に疑いたくもなったけど、彼の瞳を見てるうちに、そうではない!そんな人なはずない!と信じてしまいたくなる。本当は、お熱を上げやすいうぬぼれ屋なのかもしれないと、初めて知る自分を感じていた。 神様・・・これは夢でしょうか? こんなにあり得ない事って夢で見るものでしょうか? どうか・・・この夢がハッピーエンドになりますように! 私は心のうちで そんなネガティブな呟きをささやいていた。 そして私と彼は、一つの机を挟み向き合って座ると、まるでお見合いの席の様な空気間でお互いの自己紹介から始めることになった。 人生初に受けた告白は、学校で一番の王子から貰ったもので おとぎ話の様な展開すぎて、この時が絶頂の幸福であり、あとは転がり落ちる悲劇へと進んでいくのではないか?と、悪い想像だけが頭を一杯にしていた。
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