異端弁護路

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 秋森穂乃果は優秀な弁護士だ。  その手法は普段は裁判によらないことが多い。とは言え別に全くないと言うわけではない。単純に民事ではそうならないことが多いだけ。  つまりは刑事だと普通に裁判になることが普通。けれどこの最近社会のもめごとばかりを担当しているので機会がほとんどなかった。別に拒んでいる訳ではない。面倒がっ手は居るのだが。 「飽きたな」  書類仕事をこなしているときに秋森が呟いた。  それなりに優秀なパラリーガルの前島はこのことを予想していた。だがそれが彼の優秀と言える点ではない。単純に秋森とのコンビが長いので解っているだけ。  前島はパソコンで自分の仕事を進めながら一瞬だけ秋森を見た。 「そんなことを言わないで励んでください。これも弁護士の仕事なんですから」  その時に眺めた秋森はもうペンを鼻に挟んで腕はあたまの後ろで組んでしまっている。明らかに仕事の姿ではなかった。 「世の中、働き方改革。ノーペーパーの時代なんだよ。いつもまで書類仕事しなきゃなんないのさ」 「全うなことを言うようですが、法律に関わるんですから確実な証拠として紙媒体なのはしょうがないじゃないですか。それに電子化されたとしても仕事量は減りませんよ」  正論を真っ向から返されてしまったので、秋森は返す言葉がない。なんて状況にはならなかった。この人は普通ではないのだから。 「ちょい。前島も知恵付けたじゃない」  ペンを落として驚いた顔になったかと思えば、楽しそうに笑って椅子のキャスターを利用した前島の横に移動すると、前島の肩をバンバンと叩いていた。 「人を賢いサルみたいに言わないでください。それに痛いっす」  まだ前島はタイピングを進めて全く手を止めてない。単純な仕事量としては秋森より十分に多い。淡々とこなすのが優秀な言われでもある。 「かなり成長したんでない。これは師が良いんだな!」  もう完全に秋森はサボりになっていて、自分のデスクにも戻る気はなさそう。  しかし前島も秋森を怒ることはなく「うーん」と考えていた。 「そうですね。秋森さんと居ると勉強になりますよ」  予想外。秋森にはそんな言葉が浮かんで目を丸くしていた。 「そ、そうだろうさ。やっと解ったのか!」  ちょっと言葉に動揺が見られる。 「はい。秋森さんと居ると世間の矛盾とか強引な交渉術とか人の騙し方とか悪の正当化とかを学べますから」  それはこれまでの事件で前島が学んだこと。全く嘘ではない。  もちろん秋森は清々しい顔なんてしてない。眉間に皺を寄せ、前島を睨んでいた。 「オイコラ。あたしになんか文句あんのか?」  瞬時に返された秋森の言葉だったが、対して前島は今度は間を置いた。 「ありませんよ。勉強になってます」  真顔で仕事を続けている姿が秋森からは嘘くさく映っていた。だけどそんなところを気にしていてもしょうがない。実際前島には悪と言われる部分も知られているのだから。 「そんでー? 前島はどうして弁護士にならないんだよ」  この時に前島はやっとエンターを押して秋森に視線を向けた。 「不服がありますか? 俺は秋森さんの救けになってると思いますが」 「うん。使い勝手は良いよ」  簡単に便利道具みたいに言われてしまった。それでも前島は仕事から手を放して秋森と向かい合う。 「じゃあ、問題ありませんよね? これからもよろしくお願いします」 「普段のお前と違う人みたいだな。折角未来の弁護士への道が拓けてるのに。気味悪いよ」 「これが普通ですよ。秋森さんと居ると楽しいですから、これ以上の仕事なんて望みませんよ」  また仕事に戻ってしまって視線が交わらなくなった前島が語り、秋森が首を傾げていた。  その時に電話が鳴る。この事務所には数人の弁護士が在籍して、フロアにデスクでスペース分けされていた。鳴ったのは秋森たちのところ。  もちろんまだ絶賛休憩中の秋森が無視するので前島が電話に出た。  暫く話して切る頃には秋森は椅子の背もたれに身を任さて新聞を読み「あんだって?」と今の電話のことを聞いている。 「仕事ですよ。秋森さんの好きなお出かけの」
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