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食卓に並べられた空の茶碗に、大皿から完売になった酢豚の残り香。ヘアセットを解いた菜乃葉が茶碗を運ぶたび、その長い髪が忙しく揺れる。
「手伝いますっ」
テーブルを囲む椅子から立ち上がると、台所に立つ八坂が「結構です」と制止する。菜乃葉には「ありがとな」と笑いかけるのに、ひどい冷遇だ。
「縁凪ちゃんはお客さんだからゆっくりしててってことでしょ? 言葉足らずめ」
椅子に座ったまま背を凭れる楓と、苦笑しながらカウンターへ皿を上げていく夫の彰宏。八坂が洗い物をしている姿は見慣れているが、家具の配置も大きさも、すべてが新鮮そのものだ。
——稚内港発、香深港(礼文)行きのフェリー便が欠航と知ったのは、撮影から港へ向かう途中。
強まる波風にもしや、と案じた私の勘は正しかった。風の吹く方向にも依るが、欠航の可能性を肌身で判断できる感覚は未だ鈍っていない。
私はホテルを探そうと駅前で車を降り、しかしすぐさま楓のミニバンが追いかけてきて、彼女は言った。
『てゆーか、ウチ泊まっていきなよ!』
稚内駅から十分ほど車を走らせたところに、森戸家は佇んでいる。五年前に建てたという一軒家の内装は和洋折衷な造りで、食後に案内された客間は八畳程度の和室だった。
「すみません……ろくにお手伝いもできず」
「いーのいーのっ、青柊が来るときはいつもこうだから。家事スキル高いのよ、意外と」
それはよく知っている。
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