結婚挨拶

1/3
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

結婚挨拶

 両親を交通事故で早くに亡くし、唯一の肉親である妹の佳世(かよ)ことを全力で守って生きてきた。  時折挫けそうになったこともあったが、妹を守るのが兄としての責務であり使命だ。  必死に庇護してきた妹が、ついに俺の元を離れる時がきた。佳世はこれから俺ではない男に守られて長い人生を過ごすのだろう。 「お(にい)に会わせたい人がいるの。結婚を前提でお付き合いしている人でね、とっても優しいんだ。お兄以外にもこんなに優しい人がいるんだね」  はにかみながら佳世はそう言った。途端に目頭は熱くなり、鼻の奥がつーんと痛くなる。 「お兄、私のことを大切に育ててくれてありがとうね。お兄のおかげでにも会えたんだ。本当の本当に、お兄が私のお兄ちゃんで良かった。大好きだよ、ありがとう」  妹のその言葉に見えない重荷が下り、肩が軽くなった気がした。そしてボロボロと涙がこぼれる。 「ああ、ああ。よかったな、佳世。どうか幸せになってくれ。天国の父さんや母さんもきっと喜んでるぞ、俺もすごく嬉しい」  気がつくと、佳世も泣いていた。  兄妹(きょうだい)で馬鹿みたいに泣き合う。でもいいんだ、この涙は幸せの嬉し涙なのだから。  
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!