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真山さんと聡太くん
菜箸とエプロンと交換に彼から陽葵を受け取った。
「笑いたければ笑え。どうせ似合わないってだろ?」
くまさん柄のエプロンを身に付け、菜箸を手に取る彼。橘さんと心さんをちらっと見た。
「別に笑っていないよ。ね、橘」
「えぇ。こうして遥琉と並んでご飯の用意をする日がまた来るとは思いませんでしたからね。人生何があるか分かりませんね」
橘さんが感慨無量といった感じでふふっと微かに笑った。
「遥琉は中学生のころからすでに包丁を握り、舎弟たちにご飯を作り食べさせていました。プロ並みの腕前だったんですよ」
「それを言うなら俺より橘のほうだろ?」
「謙遜しなくてもいいですよ。遥琉は家事、炊事、育児なんでも出来ますからね。痒いところに手が届くくらいマメですからね、男女問わずモテモテなのは今も昔も変わりません」
「あのな橘、変な誤解を招くような言い方をするな。俺は未知にしか興味がないし、一生涯未知だけしか愛さないよ。他の女には一切興味がない。橘、これを揚げればいいのか?」
水で溶いた小麦粉の衣に浸した鶏肉を一つ箸で摘まみ持ち上げる彼。
「今夜は鶏天か。旨そうだな」
ルンルン気分で鼻唄を口ずさみながら揚げ物を作りはじめた。
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