恋路

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 後に残されたのは俺と高速道路。  項垂れたまま何も言わない高速道路の手に、俺はゆっくりと手を伸ばした。 「高速ど……」  俺の手が辿り着くより早く、高速道路はその手をさっと引っ込め、代わりにうるんだ眼を俺に向けた。 「渋滞……嫌だったんだ」 「……遅刻、したくなくて」 「じゃあ、言ってくれれば良かったじゃない。いうチャンスはあったでしょ? 渋滞に巻き込まれてたんだから。ずっと一緒だったじゃない!!」 「そうだけど……。言い辛くて」 「可哀想だった? 高速道路なんて名前がついてるのに、全然進まない私が惨めだった? 高い料金ばかり払わせる私が愚かに見えた?」 「いや、そんな……」 「馬鹿にしないで、私に立ってメンテナンスぐらい入るのよ。渋滞解消を目的とした工事の予定だって入ってるんだから!!」  そういって、高速道路は立ち上がり、そのまま国道と同じように部屋を出ていった。  荒々しく閉じられるドアの音を聞きながら、俺は状況がすぐに飲み込めずしばし呆然とした。  だが、それは僅かな時間で、すぐに我に返って高速道路の後を追う。 「おい、高速道路……」  マンションの外に出てみたが、すでに高速道路の姿はなかった。
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