3人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
1
今日も七色の雨が降る。
赤、青、黄色、緑、オレンジ、他諸々。豆粒みたいなそれが傘に当たるたび、パラパラと小気味よい音を立て、地面に落ちては消えていく。
通学路の中、みんなは傘を差さずに雨を浴び、今日の気分で飴になった雨(我ながら言いにくい)をついばむように口にする。
色のある雨には感情が含まれていて――そう、例えば赤なら愛情、青なら落ち着き、黄色は明るさとか――それを食べることで人は感情を育むのだ。
一体いつから、どこから、なんて野暮なことは聞かないで欲しい。あたしが産まれたときからそれは続いていて、おばあちゃんも雨を食べることを当たり前だと思っているくらいなんだから。
だけどあたしには、それがわからない。小さいときからこれが、飴が怖かった。両親はそんなあたしに根気強く食べることを勧めてきたけれど、最小限しか飴を食べないあたしに見切りをつけて、生まれた妹を可愛がってる。
それでいい、と思う。あたしは社会不適合者だ。たった一人の友達に言わせると、大人になるのが怖い変わり者、らしい。でも、本当にそうだろうか。
目の前で笑い合ってるクラスメートが食べてるのは、同じ色の黄色い飴。明るさのみなもと。同じ感情を共有するのに飴が必要だなんて、あたしには、やっぱり理解できそうにない。
傘を差すのはあたしだけ。奇異の視線にももう慣れた。だって怖い。飴を食べて感情を一緒にして、なんてのは、あたしがあたしでなくなりそうで。
だからあたしは今日も、一人傘を差す。
街中にひとりぽっちで置いて行かれた感覚を味わうのは、別にこれが最初じゃない。
最初のコメントを投稿しよう!