7 ハッカ

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 天井にある通気口へ、勢いよく吸い込まれて行く煙を見上げる。  編集部の喫煙室。視線を下ろすと飯島と目が合った。   「で?そういや、相楽。例のコとどうした?」 「んーー?」 「『んーー?』じゃないだろ?人に話すだけ話しといて」  あれから数週間が経って、週に二、三のペースで、遊は俺の家へ来るようになった。  別に頼んだわけじゃねぇが、話してる限り、育ちが悪そうにも見えない遊は。  来る度にウチを片付けようとする。  一度、 『ありがてぇけど。そういう便利屋みてぇな意味で付き合ってるわけじゃねぇから、やめろ』  と言ったら、抱いて欲しいとせがまれた。 (あいつの沸点が、俺には、よーわからん)  正方形のハイテーブル越しに、パーラメントメンソールを吹かす飯島を再び見る。 「別に普通」 「もしかして、お前…………」 「んだよ。そのリアクション」 「まさか。付き合い出したんじゃないだろうな?やめろ。相手に悪い」  ろくに長続きしない俺の恋愛遍歴(へんれき)を知る、数少ない同僚兼友人へ返す。 「いや、俺もそう思ってたんだが……」 「なんだ?どうした??」 「なんか今回は、違うっぽいわ」  口にして、青臭過ぎて顔を背ける。 「はっ?!」  俺の向かい側で、さぞかし驚いてるだろう飯島の顔を思い浮かべた。  くぐもったガラス壁へ話し続ける。 「つーか、あいつ。『蒼原(あおはら)』って苗字らしい。スゲーぽくてさ。一昨日ラーメン屋でメシ食ってて知ったんだが」 「はああ?!」  生真面目(きまじめ)な同僚の、 『いままで知らなかったのか?』  って心の声が、聞こえてきそうで、肩を震わす。  灰が危うく床へ落ちかけて、仕方なしにテーブルへと振り返ったら、 「興味がないならやめろ。お前みたいな、フェロモン駄々漏れなやつは、相手する方がしんどいんだからな」  眉間にキツめの皺寄せて、黒縁眼鏡の奥から睨まれた。 「んなもん、出てねぇーよ。バーカ」 (さて、撮影の支度でもすっか)  タバコを捨て、伸びをした後、二人しかいない喫煙室を出た。
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