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5.ジェームズ
ああ、クズだな……父親ではなく、自分が。まさか父親と同じことをして生き延びようとは……。
「いいよ、殺して」
雨は痕跡を洗い流してくれる……母のように、遺体もどこかに流してくれるだろう。
サクヤは目を閉じた。その時、先ほど殺したターゲットの手下達が公園に駆け込んできた。どう見ても、拳銃を手にしている父親の方が殺し屋で、立ち尽くしている子供は哀れなとばっちりを受けているようにしか見えないだろう。
「このくそったれがぁ!! 」
有無を言わさず、チンピラ達は父親に向けて発砲した。サクヤはすぐに身を人の流れに滑り込ませ、背後で銃声が続いているのにも構わず、足を止めずにゴールデン街を目指した。
「お帰り」
片腕のクズが、店で待っていた。だが、同じクズでも、ジェームズはよくやったとサクヤを褒めてくれる。そして、雨で濡れそぼった体をタオルで拭き、優しく膝の上に乗せて抱きしめてくれる。
「疲れたよ、ジェームズ」
まだ筋肉の残るジェームズの胸に、サクヤは体を預けて目を閉じた。
「少し眠るといい」
ジェームスの汗は酒の匂いがする。
この汗に身体中を濡らされて抱かれるのが、サクヤの唯一の慰めであった。
「私の可愛いサクヤ」
少なくとも、酒臭い口で、ジェームスは何度もこう囁いてくれるから……。
遠からず、この男も罪の報いを受けるだろう。
こんな雨の日に……。
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