69 S

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69 S

 気付いてた?気付いてた?  中島も?三田も? 「匡也は、いつ…?」  身体を捻ってどうにか匡也の顔を見た。 「…俺の告白の後押しをしてくれたのは中島だよ』 「え…?」  照れた顔で匡也が応えた。 「あの日さ」  三田がオレの膝をトントンと叩いて言う。 「本屋入ったの、わざと」  振り返ると、三田がイタズラに成功した子どもみたいな顔で笑ってた。 「2人っきりになれば羽村もいい加減言うだろうって思ってさ」  三田が目線をオレの後ろの匡也に向けて「なー?」って言いながら首を横に傾けた。 「お前ら本人より、おれらの方が先にお前らの気持ちに気付いてたんだよ。で、見守ってたけど、じれったくてしょうがねぇから発破かけてやったってわけ」  中島がニヤッと笑いながら低い声で言う。    周りのザワザワが遠ざかって、あの日の、匡也が告白してくれた雨の日のことが、鮮明に思い出された。  普段、三田は本屋になんか入らない。 『お前らは勉強よりも先に片付けた方がいい問題があるんじゃねーの?』  あれは、そういう意味だったのか。  オレが匡也に微妙に避けられてる感じだったのを「どうにかしろ」って言われたのかと思ってた。 「だからさ、おれらの前では隠そうとかしなくていいから。そもそもお前ら、前からベタベタしてたからあんま変わんねぇけど」 「そうそう。もう慣れてっから、お前らのゼロ距離には」    優しく笑いながらかけられる言葉が温かくて、鼻の奥がツンとする。  スンッと鼻を啜ったら、匡也がオレを抱きしめてる腕に力を込めた。  ここは、安全な場所  泣きそうなのを必死で堪えながら、何回か深呼吸をしてようやく口を開いた。 「…お、しえてくれ、て…ありがと…」  歪んだ、掠れた声になった。 「ごめんな、黙ってて…」  匡也の低く甘い声が、耳からも、触れているところからも入ってくる。  ううん、て頭を振って、オレを抱きしめてる匡也の腕に手を添えた。 「泣くな泣くな。もう休み時間終わるぞー?」  中島がくすくす笑いながら言ってくる。 「な…いてねぇもん…っ」  拳で目を擦ったら「泣いてんじゃん」て三田に笑われた。 「おれらと友達でよかっただろ」  中島がオレの肩を叩いて言う。  うん、うん、うんて頷きながら、滲んでくる涙を拭った。 「…これは無理だ」  ぼそっと呟いた匡也が両腕でオレをぎゅうっと抱きしめた。  背中に匡也の顔が当たってるのが温もりで分かる。  中島と三田が「だよなー」って言って笑っていた。  
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