Extra.01 Xmas present

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「…煙草吸いたい」 「起きて一番に言うことがそれですか」 「おはよう、今日も俺の未寿は世界一可愛いね」 「アメリカ人に感化されたんですか」 「毎朝言うんだって、これ」 「誰が?」 アメリカのカード会社の部長、と呟いた鵜飼が気怠げにブランケットの中から顔を出すと、ヘッドボードに放り投げられたまま放置されていた煙草の箱にのろのろと手を伸ばす。 ふああ、と盛大に欠伸をしながら半分寝ぼけたままで煙草の箱を振る鵜飼は、どうにも普段会社で見る姿とは結び付かない。あの体中に神経の張り巡らせたように鋭い空気を纏った男が、ここでは油断と隙だらけだ。 「奥様に?」 「結婚25年目のな」 「わあ、素晴らしいですね、さすがアメリカ」 「外人の血を感じるよな」 まあ実際そうなんだけど、と枕を抱えながらうつ伏せに体勢を変えた鵜飼が煙草を咥えた。キンと小気味の良い音を立てて開いたジッポからその穂先に火を灯す。私は鵜飼のその仕草に思わず眉を顰めた。 「寝たばこやめてくださいね」 「…すみません」 素直に謝って上半身を起こす。 鵜飼はナチュラルに行儀の悪いところがある。 そして行儀が悪いだけならいいけど、寝たばこは普通に危ない。目撃するたび注意する私に鵜飼は気まずげにしながらも、なかなか治りきらなくてむっとする。 「俺の秘書殿は厳しいな」 「私の副社長様は仕事以外からきしなので」 「男なんか仕事が出来ればそれでいいだろ」 「いいわけないでしょう」 昭和の男じゃあるまいに、時代錯誤な。 ひたすら働いて家族を養えばそれでいいなんて価値観は、この令和の世では害悪とすら言える。鵜飼もそこに異論はないのだろう、すんと口を噤むとすぐ目を逸らした。
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