石人

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石人

 道は、うずくまる人の形をした石を境に、うねりながら二股に分岐した。  石に突き当たり、二つに割れた道の中央に立つ。石人のちょうど肩になる箇所に手を置いた。滑らかに磨かれた表面を撫でながら、これはいつも見ている夢なのだと気がつく。  この道は、右へ行けば森へ。左へ行けば海へと繋がっていると、知っている。左へ、海へ行きたいと思うのに、いつも身体は右に踏み出す。そうして、足が勝手に右の道を選んで進んでいく。  足に任せていると、森へとどんどん踏み込んでいった。森は新緑に彩られ、薄緑や濃緑の葉の隙間から陽が透かし降る。足元には光と影の模様が、無作為に描かれていた。これもまた、いつもの夢の通りなのだった。  頭上から、鳥の声が聞こえた。一定のリズムで高い声を出すと、次は長い声で低く鳴く。姿を見ようと声のする方向に視線を上げたが、無数に重なる枝と葉が見えるだけで、鳥の姿は見つけられなかった。数羽で鳴き交わしているらしく、声は複数の方向から聞こえはするが、相変わらず姿は見えない。警戒して鳴いているのか、単なる日常会話なのか、しばらくすると飛び立つ羽音と共に声は消えた。  静まり返った森の中を、道なりに歩いた。夢の中の時間感覚は分からないが、五分程度歩いたところで等間隔で生えていた木はまばらになり、少し開けた場所に出た。  目の前の道は、またもあの石人を境に、上る方向と下る方向に分かれていた。  下れば、海へ行ける。上れば、山の頂上を目指すことになる。  海へ、と心を決めるのに、やっぱり足は山の頂上に向かう道へと踏み出している。海へ行きたい気持ちを諦めて、足の意思に従った。  上半分の身体は疲れで呼吸が早くなってきたが、足は先程と変わらない速度で進んでいく。傾斜がきつくなっても、それは変わらなかった。  心と身体、上半分と下半分がバラバラに、それぞれの意思を持っている。夢での定番の出来事だ。抗っても無意味なので、流されるままにする。  疲れない足のために、疲れた心臓が根を上げる。もう駄目だと感じ始めると、辺りの風景が変わった。  高く高く伸びていた樹々が、背丈よりも低くなる。全て葉の緑で覆われていた視界は、表土の薄茶色と羊毛に似た白色の混色が半分、残り半分は空色の領域になった。いつの間にか、山の頂上であった。  道は、山の稜線伝いに続いている。  道の行き先を目で辿ると、遠くに山小屋が建っていた。あそこまで行けば休む事もできる。  そう思って一息吐いた途端に、目の前の石人に躓いて目が覚めた。
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