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太い金のブレスレットをつけた腕が,秀行の入った箱をポンポンと軽い音を立てて優しく叩いた。
揺れるブレスレットを掴むように何本もの細い腕が絡み合うように伸び,その何本もの腕は秀行が入った箱を一緒にバンバンと激しい音を立てて叩き続けた。
バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン!!
誰も来ない漁港の奥で激しい音が鳴り響いたが,どんなに激しく音を立ててもその音に気づく者は誰もいなかった。
『馬鹿だな……誰も俺たちの叫びなんて聞こえないんだよ……こうなったのも全部自業自得なんだよ……』
秀行が入った箱が微かに揺れた。
『俺たちみたいな誰にも望まれずに生まれて,なんの希望もないまま生きてきた連中がどんなに大きな音を立てたって,誰にも届かないんだよ』
明かりのないどこまでも壁のない真っ暗な空間に,これまで秀行が拐った少女たちが恨めしそうに立っていた。
手脚のない者,眼球のない者,腹や胸を開かれて身体の中が空っぽになった者たちが秀行を囲んでいた。
『なんだお前ら,臓器や眼球を売り飛ばされたのか。手脚がないやつは達磨にされて性処理の玩具か。よかったじゃねぇか。誰にも必要とされなかったお前らが変態野郎どもに必要にされた証だろ』
生前の姿を辛うじて残した少女たちは秀行の言葉に反応せずに,真っ暗な世界で立ちすくんだまま静かに身体を揺らした。
身体を揺らす少女たちの間から,見覚えのない肉塊になった少女が胸から下を無くした姿で現れた。
何かを伝えたいのか腕だけで床を這いずり秀行に近づいてくると,大きく目を見開き眼球のないくぼみから涙を流した。
『ずっと私を守ってくれるって言ったの,私は信じてたのに』
『え? お前……麗華……なのか……?』
涎を垂らす口が歪に開くと,歯はなく舌には乱暴に釘が何本も打ち付けられ,喉の奥からカミソリのような刃がこぼれ落ちた。
『なんだよ……麗華。お前もそんな身体にさせれちまってたんだな。どこかの変態野郎に切り刻まれて玩具にされたのか?』
『ずっと,ずっとずっとずっと,秀行が助けてくれるって信じていたのに』
『ふっ……お前も馬鹿なんだな。俺は言ったよな。どんなに助けを求めたって,誰も俺たちの声は聞いてくれない。どんなに泣き叫んだって,どんなに激しく暴れて音を立てたって誰の耳にも届かないんだ。結局最後は一人なんだ。でも俺は最後までお前と一緒にいるし,どこにいようともお前を迎えに行くからって」
『だから私はあんたを待ってた! 知らない男たちに弄ばれ,身体を焼かれ,歯を折られ,腕や脚を切り落とされても,あんたを待ってた!』
『ああ,だからこうしていまお前の前にいるだろ。俺はお前を守ってやるなんて一言も言ってない。最後まで一緒にいると言ったんだ』
『…………』
『だから麗華,この真っ暗な何も見えない闇のなかだけど,ずっと一緒にいてやるから,これかもよろしくな。それからお前たちも,よろしく』
『……………………』
真っ暗な世界でゆらゆらと揺れる少女たちが二人を囲むと,二人の身体を叩きはじめた。
なにもない闇のなかで,少女たちがどんなに叫んでも,どんなに泣き喚いても,音も光も時間の流れもない,未来すらないこの世界で彼女たちの声を聞くものはいなかった。
先の見えない真っ暗な世界のなかで,二人にまとわりつく少女たちの後悔と怨念が静かに闇に溶け込んでいった。
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