生者必滅・会者定離

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「痛ってぇな!?」  溝に落とされた痛みも感覚が麻痺して,以前砕かれた脚がおかしな向きに曲がっていることすら気がつかなかった。  痛みに鈍くなった指先で溝から這い上がり,アスファルトの道路へと転がり出た。  真っ暗なガード下は所々に黄色い照明が照らされていたが,秀行が這い上がった場所はほかのところよりも暗く,車を運転する者が道路に人がいることに気づいたとしても急に止まるのは難しい場所だった。  溝に落ちてあちこちから血を流し,道路に横たわる秀行が顔を上げた瞬間,黒い高級車が大きな音を立てて勢いよく秀行の頭を跳ね飛ばした。 「え……?」  潰れた頭は壁に当たってから道路に転がり,頭を失った胴体は首から噴水のように血を噴きながら転がり痙攣していた。 「クソッ ドウブツカ!? クルマ ダイジョウブカ!?」  運転席の男が車から降りてしゃがんで車の傷を確認すると,立ち上がって辺りを見回した。  車の後方には首のない遺体が血を噴き出して転がり,遥か前方にはぐちゃぐちゃになった秀行の頭がまるで男たちを睨むかのように転がっていた。 「クソッ! ニンゲン カヨ!」  助手席からも男が降りてくると,後方に転がる遺体を確認し,遥か前方に転がる首を拾いに行った。 「クソッ! 車を汚しやがって! なんだこいつ!? ホームレスか!? 汚ねえな!」  男が髪の毛を鷲掴みにして潰れた頭を持って戻って来ると,金色の歯を見せて大声で笑った。 「おいおいおい,こいつ秀行だぞ。なにやってんだ,最近顔を出さないと思ったら,こんなとこでホームレスやってやがった」  小柄な男が車のトランクからゴルフバックのような形をした黒い分厚いビニール袋を取り出すと,首のない身体を袋に入れ,特殊な形のジッパーで遺体が入った袋を閉じた。 「秀行には最後の最後までしっかり金をつくってもらおう。幸い頭を綺麗に飛ばしたようだし,こいつの臓器はさっさと売り払って金に換えよう」  車が静かに走り出すと,男たちは忙しそうに電話を掛けまくった。途中のコンビニで大量の氷を買い車のトランクに敷き詰め,厳重に包み込まれた遺体の損傷が進まないように注意した。  車が停まっている間,小柄な男は片言の日本語でどこかに電話をしていた。 「ジンゾウ カンゾウ ヒゾウ ハ ブジ ホカニモ ツカエル! ニホンジンノ ワカイ ゾウキ キチョウ」  やがて車が静かに漁港の倉庫に滑り込むと,奥にある他とは違う雰囲気の建物へと入って行った。  タトゥだらけの男たちが慌ただしく行き来し,さらに奥の個室には意識を失い横たわる少女たちと並んで大きな発泡スチロール製の特殊な箱の中で間接的に氷漬けされる秀行の身体があった。 「ふふ,秀行。これからお前の女が眠る場所にお前も送り届けてやる。しっかり稼いでくるんだぞ。お前には随分と稼がせてもらってる。最後までよろしくな」
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