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幼い頃から父親を知らず,母親は朝も夜も仕事で帰って来ない家庭で育った。
毎朝テーブルの上に置かれた五百円だけで一日を過ごし,帰ってこない母親の顔は満足に見たことがなかった。
家の掃除をすることはなかったが,他人に臭いと言われてからは自分で洗濯することを覚え,風呂には入らず台所で身体を拭いた。
食事はいつも近所のスーパーで売っている見切り品か閉店間際のセール品を一日一食,真っ暗な部屋で一人で食べた。
物心がついたときには,黒木秀行は既に周りから怖がられる存在になっていた。
小学生の頃はまだ友達と呼べる仲間もいたが,中学生になると周りの人間がすべて敵にみえ,かかわる者を全員無差別に傷つけた。
当たり前のように中学に行かなくなると,そのまま家を出て,繁華街で同じような問題を抱えた子どもたちが集まる場所で自然とたむろするようになった。
たむろする同年代の男たちとは喧嘩もするけれど,一緒に大麻を吸ったり,闇バイトで見知らぬ人の銀行口座から大金をおろしたり,中身のわからない荷物を言われたままに運んだりした。
秀行の凶暴性は子どもたちのなかでも異質で,自らの快楽のためにホームレスを暴行したり,家出少女を路上でレイプすることが度々あった。
そんな場所にたむろする少女たちもマッチングアプリで身体と引き換えに中年の男たちから金をもらい,時間のあるときは公園横に立って客を引いた。
そんな生活を送っていたある日,やけに幼い堀田麗華という家出少女が秀行に懐き,いつも側を離れなくなった。
二人は自然と惹かれあい,麗華は幼い身体を売って稼いだ金で秀行に大麻を奢ってくれたり,欲求不満だと言えばただで抱かせてくれた。
「いいか,どんなに助けを求めたって,誰も俺たちの声は聞いてくれない。どんなに泣き叫んだって,どんなに激しく暴れて音を立てたって誰の耳にも届かないんだ。いいか,結局最後は一人なんだ。でも麗華,俺は最後までお前と一緒にいるし,どこにいようともお前を迎えに行くからな」
「なに言ってんの? カッコつけなくていいよ。でも,これからずっと秀行が私を守ってくれるって信じてるね」
幼い二人は,いつも路上の隅で抱き合いながら将来の夢を語るようになった。
秀行はいつか二人でアパートを借りて一緒に暮らそうと話し,麗華は秀行のためにやったことのない料理を作ってみたいと語った。
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