ワタシ ノ イバショ

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 やけに明るい浴室でポコポコと音を立てながら鼻の下まで湯船に浸かり,湯気のなかで溢れ出す涙がお湯に溶けていった。  鏡についた水滴が音もなくタイルに落ち,密室の浴室のなかで陽奈(ひな)の鼻を啜る音と嗚咽のような泣き声が静かに響いた。  視界が狭くなり目の前がモノクロになると,一人で泣き続ける浴槽のなかで気持ち悪くて吐きたくなった。頭が痛み,何故か顔も痛くてお湯が肌に滲みた。 「これ,どうしよう……どうしたらいいんだろう……」  陽奈は自分が我儘(わがまま)だったことも,全部自分に非があることも理解していたがどうしようもできなかった。  好きな人に我儘を言って甘えたいだけだったのに,相手の気持ちを考えずに強く言い過ぎたことを後悔した。  謝りたくてももう謝ることもできない,会いたくても会うこともできない状況を受け入れられなくて,苦しくて胸が張り裂けそうになっていた。  いままで陽奈自身が知らなかった自分の心の弱さに驚き,好きと伝えたい相手に伝えられない苦しさに押し潰されそうな現実と,もう楽しいこと,嬉しいことを共有できる相手がいない恐怖に耐えられる気がしなかった。 「やだよぉ……怖いよぉ……寂しいよぉ……」  浴室の電気が眩しく,湯船に浸かる身体(からだ)が真っ白に見えた。 「会いたいよぉ……寂しいよぉ……やだ……怖いよぉ……やだよぉ……怖い……怖い……ねぇ…怖いよぉ……」
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