妄想のなかの現実

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「なんで俺の人生はこんな苦痛だらけなんだよ。なんで俺より劣ってるやつらがチヤホヤされてるんだよ」  ギターを片手に深夜の公園に移動すると,誰もいない喫煙所へ行き冷たいポールの手摺に寄りかかって煙草を咥えて火をつけた。 「やっぱりギターだけじゃ生きていけないか……アーティストとして生きるためにはイラストも描いたほうがいいのか……子どものころはよく絵を褒められたもんな……それにあんなバイトもう辞めたいし」  煙草の煙が目に染みたが,それが原因とは思えないほど自然に涙が溢れた。  祥一朗自身いつからこうやってアーティストになると言い続けているのかも覚えていないが,自分に才能がないことだけは誰になにを言われても頑なに認めなかった。  有名な作家の小説を読んでも,世界的に認められたアーティストの作品を観ても,音楽に関しても自身の作品が劣っているとは感じなかった。 「資本主義のせいだ……戦後の歪んだ日本人が築きあげてきた間違った資本主義が俺のアートの邪魔をしているんだ……」  二本目の煙草に火をつけ,肺いっぱいに煙を吸い込み,ゆっくりと星のない空に向かって吐き出した。 「作詞,作曲,イラスト,ギター,全部器用にこなしているじゃねぇか。くそっ全部中途半端にしかやれてねぇじゃねぇか。どっちが本物なんだよ,俺は」  煙草を咥えて肩を落としたが,それでもすべてが上手くいっていないのは世の中のせいだと決めつけ,自分のSNSを開いては閉じ,短くなった煙草を灰皿にねじ込んで喫煙所を出た。  公園の外には楽しそうに酔っ払う人の波がキラキラして見え,響き消える笑い声が友達のいない祥一朗を馬鹿にしているように聞こえた。 「お前らの資本主義は,俺を馬鹿にして喜んでやがる。非正規労働者を喰いものにして,歳下のくせに正社員だからって,歳下のくせに上司になれて,バイトの俺を見下してやがる」  肩にかけたギターがやけに重く感じ,誰からも認められない現状に吐き気がした。 「ちくしょう…… 母親がいなけりゃ,とっくに自殺してんのに。母親のために俺は生きてるようなもんじゃねぇか……母親がいなけりゃ……とっくに死んでやってるのに……」  ギターを肩にかけ直し,街灯が少なくなっていく住宅街をふらふらと歩いた。 「俺はみんなよりなんでも上手にできるのに……全部……俺が認められないのは,全部この間違った資本主義のせいだ……」
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