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 一輪挿しにバラを生け、机の端にある多肉植物の隣に置いた。彼はどんな気持ちで私の靴箱にバラを入れたのだろう。考えれば考えるほど、深みにはまっていく。  なかなか勉強が手につかず、思い立ったように衿子はピンク色のバラの花言葉を調べ始めた。  サイトによってもいろいろだったが、『しとやか・上品・可愛い人・美しい少女・愛の誓い』などが出てくる。  私が上品だとか可愛いとかはあり得ない。彼とはただのクラスメイトだし、愛の誓いなんてもっとわからない。  ただ一つ言えるのはーーあの日を境に彼のことが気になり出したということだけ。ただのクラスメイトだったのに、彼の笑顔を思い出しては胸が苦しくなる。 『バラが見たければ晴れた日に来なよ。もし温室の中が見たければ雨の日に来ればいい』  誰かに見られるのを覚悟して晴れの日にバラを見にいくか、人の目を気にせず温室を見せてもらうかーー。  ううん、そうじゃないのかもしれない。だって別に一人でいつバラを見に行ったって構わないじゃない。温室だって、顧問の青木先生に言えば見せてもらえるはず。  だからきっと私が気にしているのは人の目とかそういうことじゃなくて、彼に会うのか会わないのかということなんだと思う。 『その代わり、俺しかいないけど。みんな幽霊部員だから』  まるで自分に会いたければ、雨の日に来いと言っているように聞こえるのは何故かしら……。  衿子は教科書の文章を指でなぞっていくが、一向に頭の中に内容が入ってこない。  自分らしくない思考と言動にイライラしながら、心の片隅では雨が降ることを望み始めていた。
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