モノリス

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 解読が進むと、石柱(モノリス)の内容には変化があらわれた。  暴動。侵略。革命。戦争。人災が飛躍的に増加したのである。解読チームは声明を出した。 「古代から中世に、『石柱文書』の時代が移行したようだ」  その先もあるらしい。とすると、文書はどこまで続くのだろう。誰もが思った。  そして、どのように終わるのだろう?  解読はせかされるように進んだ。飢饉。汽車の脱線。環境汚染。飛行機の墜落。戦争。また戦争。『石柱文書』はとうとう中世を越え、近代に入った。第一次世界大戦が勃発し、第二次世界大戦が終結する。その後も紛争、内乱、テロがひっきりなしに発生し、あいまを縫うように大規模災害が顔をのぞかせた。  そしてある日、解読チームは緊急会見を開いた。大勢の記者と、中継用のカメラがつめかけるなか、チームのリーダーは言った。 「ここ数日の解読結果より、我々は『石柱文書』がに到達したと判断しました」  突然の発表に、会場の記者たちは勢い込んだ。 「『石柱文書』は予言書でもあったのか! では、残りの部分はすべて未来の記録となるのですね!」  うなずくリーダーは、顔色がひどく悪かった。額の汗をぬぐうと、彼は「ひとつ問題が……」と手を挙げた。 「そのなのですが。試算によると、『石柱文書』の残りは、あと三か月ほどしか存在しないようなのです」 「石柱文書が終わるとき、人類は全滅する!」と主張する宗教家が大量に現れた。 「石柱文書のあとにはもう悲劇は起こらない。永遠の平和が訪れるのだ!」と説く宗教は一つもなかったし、信じる人もいなかった。  混乱の中、いくつもの国で暴動が起こった。原油価格が高騰し、大手銀行が破綻し、トイレットペーパーが買い占められた。また爆弾テロが起こり、バスが燃やされ、空港が閉鎖され、ミサイルが飛び、衛星が落ち、独裁政権が樹立したそばから打倒された。国会では与党と野党が乱闘し、サッカー場では敵対するサポーターどうしが衝突し、七股ゲス男の家には結託した女たちが突撃し、孤島の洋館では連続殺人事件が発生し、国境沿いでは領土をめぐる小競り合いが本格的な戦闘に発展し、そこにそれぞれの同盟国が参入した。  それらのうち、大きなできごとは『石柱文書』にも記述されていたが、誰も気にしなかった。解読を追いかけ続けた人びとは、今では石柱のもたらす影に追いかけられていたのである。  三か月後。薄暗い研究室の片隅に、わずかに残った解読チームのメンバーが集まっていた。すべての援助が停止したいま、彼らは『石柱文書』の終わりを知りたいという一心で、細々と解読を続けていたのだ。  外の通りからは、銃声と悲鳴が断続的に聞こえてくる。リーダーは震える手で最後の解読を終えると、その一文をかかげて見せた。  石柱(モノリス)は、このように締めくくられていた。 『二巻につづく。』
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