シーマ

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シーマ

(嘘…そんなこと、信じられないわ…!) フランクが死んだという噂が、町中を駆け巡ったのは、彼とロザリアの結婚式の前日のことだった。 フランクの住む屋敷の傍で、シーマは木陰に身を潜め、震える足で懸命に立っていた。 屋敷には慌ただしく人が出入りし、今、ここが大変な事態になっていることがシーマにも感じられた。 (フランク…どうしてなの? どうしてこんなことを…) シーマの頬を熱いものが流れていく。 それを拭おうともせず、シーマは放心して立ち尽くしていた。 シーマの脳裏を、フランクの最後の言葉がかすめた。 『良いかい、シーマ… どんなことがあっても、僕のことを信じてほしい。 僕はどんなことがあっても、君と結婚する。 だって、僕が愛してるのは昔から君だけなんだから。 だから、絶対に僕を信じて…そして、待っていてほしい。』 シーマは、フランクのまっすぐな瞳を信じたいと思った。 だけど、そんなこと、出来るはずがなかった。 フランクは、貴族の一人息子。 シーマは貧しく身寄りもない町娘。 いくら、幼馴染だと言っても、身分が違い過ぎる。 シーマは、フランクのことを端から諦めていた。 だから、隣町の貴族の娘・ロザリアとフランクの結婚が決まった時にも、シーマはそれを受け入れた。 なのに、フランクはそうではなかった。 『僕が愛してるのは君だけだ。』 『僕は、君としか結婚しない。』 そんなフランクに、シーマは戸惑うばかりだった。 気持ちは嬉しいが、二人の仲を許してもらえるわけがない。 (フランク……) フランクは、毒をあおったとのことだった。 きっと、彼は絶望して死んでしまったのだ…フランクの気持ちを思うと、シーマの涙はなおも止まらなくなった。
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