Mission108

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Mission108

 ギルソンはポルトとマリン、それとその従者たちを連れてツェンの街を案内する。  ツェンの街はファルーダン王国の根幹を支える重要な場所である。ここで産出される鉱石は、今や鉄道を利用してマスカード帝国にも盛んに輸出されている。  ギルソンがここにポルトとマリンたちを連れてきたのも、もちろんソルティエ公国への売り込みが目的である。  同じ採掘系でもさすがに魔法石の採掘場所は極秘であるので、こればかりは教えられない話である。国家機密だから仕方のない話である。  街に到着した一行は、まずは町長の家へと向かう。  ギルソンたちの訪問に、町長は驚きのあまりに腰を抜かしていた。ギルソンだけならどうにか耐えられただろうが、ソルティエ公国の公子公女まで居るとなると無理だったようだ。それくらいに身分の高い人物たちの相手に慣れていないのである。さすがは王国の奥地にある街である。 「町長、こちらはソルティエ公国のポルト公子とマリン公女です。彼らに街を案内して頂きたいのですが、よろしいでしょうか」 「も、も、もちろんでございます。お、お任せ下さい」  町長はものすごく緊張しているようだった。それが証拠に手足が震えている。これで大丈夫かと思うギルソンの側近たちだが、 「ボクも同行しますので、落ち着いて下さいね、町長」  ギルソンは笑顔で緊張を和らげようとしていた。さすがは王子、気遣いのできる男だった。  こうして、ギルソンたちによる街案内が始まった。  鉱山は中は危険という事でその手前の詰め所までの案内となったが、中から運び出されてくるたくさんの鉱石の量にポルトとマリンたちソルティエ公国の人間たちは驚きを隠せないようだった。ソルティエ公国には鉱山がないので、こんなにたくさんの鉱石を一度に目にする事がないからだ。  ソルティエ公国の主要産業は海運業と林業である。金属の類は既製品をファルーダン王国他から仕入れている状況なのだ。一応鉱石を扱う施設はあるものの、修理が中心となる小規模なものばかりというのが現状なのだ。 「鉄道がソルティエ公国まで通じれば、このツェンの鉱石を短時間で運べるようになります。一足先に取引するようになったマスカード帝国も、ずいぶんと金属加工が盛んになったようですからね」  ギルソンの説明を、ポルトたちはただただ黙って聞く事しかできなかった。どうにも鉱山の様子に驚いてしまっていて、話がまともに入ってこないようだ。 「逆に言えば、ソルティエ公国で獲れた海の幸を、この山の中に持ってくる事もできるようになるはずです。冷蔵技術は既にマスカード帝国との取引で利用していますからね。おかげでミルクなど腐りやすいものもかなり流通するようになりました」 「……それはすごい」  もうソルティエ公国の面々はどう反応すればいいのか分からなかった。話のすべてが非現実的なのである。はたしてそんな事が可能なのか。鉄道に乗って高速移動を体験した今でもまったく想像できないのだった。 「今頃はボクのオートマタであるアリスが、ソルティエ公国の首都までの鉄道の建設を進めているはずです。そうすれば嫌でも実感するようになると思いますよ」  意地の悪い笑みを浮かべるギルソンである。まったく、ずいぶんとたくましくなってくれたものだ。小説のギルソンとは違う意味で脅威になりそうである。  案内が一段落して、ツェンの街の中で昼食を取る一行。この昼食にも、実に驚くべき内容が隠されていた。 「マスカード帝国の農産物が手に入るようになって、この街の食事もずいぶんと変わりましたね」 「そうですね。肉が中心だった食事も、ずいぶんと野菜が増えたように思います」  確認するようなギルソンの問い掛けに、町長はしんみりとした様子で答えていた。  実際このツェンの街は山の中で植物はそんなに多くない場所だった。その代わり野生の動物はそれなりに居たので、食事の中心は鳥獣類の肉ばかりだったのだ。それに加えるとしても保存のきく小麦などの穀物を使った料理くらいだ。そんなに種類は多くなかった。  だが、ファルーダンの国内やマスカード帝国からの農産物が鉄道によってもたらされるようになり、その食事内容はすっかりと様変わりをしてしまった。目にも鮮やかな食卓を毎日迎える事ができるようになったのだ。  こういった話をポルトやマリンたちソルティエ公国の人間は、食事を食べながら黙って聞いていた。鉄道が通る事による生活の変化は興味深かったからだ。半信半疑だった気持ちも、段々と信じられるように変化していった。  たった1日だったとはいえ、ツェンの街の滞在はソルティエ公国にとってよほど衝撃的だったようだ。  確かな手応えを感じたギルソンは、実に満足そうな笑顔を浮かべていた。 「それでは、王都に戻りましょうか。駅に向かいますよ」  ギルソンの呼び掛けに驚いたものの、一行は駅へと戻っていく。そして、夜通し運転される列車に乗ってファルーダン王国の王都へと戻っていったのだった。
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