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土埃があがるなか、
「へえ。イリスもだいぶ強くなったんだな」
姿を現したアギオスは、取っ組み合うふたりを見ながらテーブルに腰をおろした。
魔女ルイーザは、とっくに魔法連邦へと帰っている。
賢者は首をかしげた。
「それにしても、イリスも物好きだな。精霊の力を使えば、ユノーグなんてすぐに倒せるのに」
精霊王を父に持つハーフエルフは、その力さえ解放すれば、魔女と聖女をしのぐ能力がある。しかし【七耀の星】である限り、その力を使うつもりはないらしい。
この秘密を知っているのは、本人とアギオス、そしてシモンだけ。
「いいんじゃないの。イリスにとっては切り札なんだから」
「なんの切り札だ?」
「きまってる。ここまで散々フラれてるんだから、ルイーザが危機に陥ったときに、颯爽と現れてカッコよく救ってあげたら、氷の魔女の心も溶かせるだろう――っていう作戦」
「溶けなかったら、どうなるんだ?」
「……きっと、泣くだろうね」
「イリスだからな」
七耀の星たちが棲むディストピアに、聖なる風が吹く。
この島に、聖女と勇者が帰ってくるころには、神樹には花が咲いているだろう。
そう思いながらアギオスは、『賢者の書』をひらいた。
「さて次は、どこで、なにが、はじまるかな」
【完】
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