始まり

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「ありがとうございましたぁ〜、お気をつけてぇ〜」 最後の客を見送った春香(はるか)は、店に戻ってくるなり、ふあ〜と豪快なあくびをかました。 「あ"ー、疲れた。早く帰ってビール飲みたい」 「今日のは2オクターブ高かったね」わたしが言うと、春香はさっきまでの営業モードの顔に戻った。 「雪音ちゃん、お疲れ様ですぅ。さっ、ちゃっちゃと片付けて早く帰りましょう」 「・・・猫かぶり」 わたしの嫌味を無視して、春香はそそくさとキッチンへ向かった。「あたし洗い物するから、あんたホールお願いね」 「あいあい」わたしはテーブルに残った皿とグラスを片しに入る。 まあ、確かに春香の言い分には一理ありだ。 今日は金曜日。週末ということもあり、店内はオープンから賑わっていた。休む暇も無く、足はもうパンパンだ。 早く帰ってビール・・・ではないが、暖かいお湯に浸かりたい。 「はあ〜、疲れたねぇ」 そんなわたし達をよそに、入口の待合席に座りたばこをふかしている男が1人。 「毎度言いますが、店内は禁煙です店長」わざと皿を鳴らし片付けをアピールしたが、店長はこちらを見向きもしない。 「お客さんいないからいーの」 「そのお客さんには外で吸わせてるくせに」わたしの指摘を無視して、店長は2本目に火をつけた。 これ以上言うだけ無駄なのはわかっていたから、片付けに徹した。 ここは創作イタリアンの店、【TATSUータツー】 オフィス街ということもあり、日頃からサラリーマンやOLの憩いの場になっている。 従業員は、店長の木下 達也(きのした たつや)、大原 春香(おおはら はるか)、そしてわたし中条 雪音(なかじょう ゆきね)の3人だ。 ちなみに店の名前でもあるシェフの店長は、基本、やる気皆無。調理をしている時以外は常に携帯でゲームをしているかタバコを吸っている。 というか、その姿しか見たことがない。 "自称"40代らしいが、わたしには時々、初老に見える。
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