罰の隣で希う。

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「どんな理由であれ。人間たちとの交渉を諦めて、結局たくさんの人間を殺してしまったのは事実。最終的に、人間たちの平和を無視して、魔族の平和だけ追求してしまった。それが、俺の罪。俺は自分の罪がわかっていた。だから、神様の命令を受けた。そして……今度は、自分達以外の誰かの幸せのために生きようと、それが唯一できる償いだと思って今に至る。……お前はどうだ」 「ぼ、僕は……」 「もうわかっているんじゃないのか。お前自身の罪が、なんだったのか」 「…………っ」  勇者となったのは、僕のせいではない。だって僕は地球の日本で死んで、気づいたらあのファンタジーな世界に生まれ変わっていて。勇者になる以外に選択肢なんてなかったのだから。  けれど、今ならわかる。本当に、僕は“魔族を皆殺しにして人間だけの平和を作る”勇者になる以外に道はなかったのか。  本当はもっと、もっと別の道があったのではないか。僕が己の弱さを認めて、受け入れて――魔王が何故人間と戦い始めたのか、それをたった一言尋ねる勇気があったなら。 ――ああ、かつて、誰かが言っていた。……真実は、愛がなければ見えないと。  もし、自分にもう少し、魔王や魔族と呼ばれた者達に対する愛があったなら。 「……なんだよ、それ」  知ろうとしなかった。  何か少し、違和感を覚えることがあっても気づかないふりをした。  それが僕の罪であり、この地獄の理由だ。 「そんなこと今更言われたって、もう取り返しなんかつかないじゃないか!だってもう、あの世界の運命は変えられないのに!」  僕が叫ぶと。魔王と呼ばれた男は、やせ細った手で僕の頭を撫でたのだった。 「過去は変えられなくても、未来は変えられる。俺とお前も、変わることができる。……何ができるか、もう一度考えてみないか。我々にはその時間が与えられたのだから」  まだ、全てを理解できたわけではない。  ただはっきりわかっていることがある。――その地下世界から転生した僕達が、再び別の世界で勇者と魔王になっていたということ。 「勇者様、お願いします!どうか、悪しき魔王を倒してください!」  村人たちが、僕に頼んでくる。僕は彼らに笑顔を向けてこういうのだ。  ここが最後の世界か、そうではないかはわからないけれど。 「そうだね。……でもその前に、僕は魔王とちゃんと話がしたい。みんなが幸せになれる世界を、どうすれば作っていけるのかを」  これからもどうぞよろしく、魔王様。  いつか貴方が僕と共に、幸せだと心から笑えるようになる日まで。  罰の隣、今日も僕は希うのだ。
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