幽霊の卵

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幽霊の卵

ステラ・トゥバンはグイグイと友だちのカレンに腕を引っ張られ、携帯魔石灯の光を頼りに、廃鉱の中をどんどん奥へと進む。  ごつごつとした岩が作りだす不規則の陰影は、夜の廃鉱の不気味さを演出している。  せっかくの休日前の夜に、何が楽しくて心霊スポットへ出向かなければならないのか。ステラの蜂蜜色の丸い瞳からは、今にも大粒の涙が溢れ落ちそうだ。  先ほどからステラに、まとわりついている幽霊たちが、カレンには見えない。  陽気な霊もいれば、恐ろしげな顔で威嚇している霊もいる。イタズラ好きな霊は、ステラのマロンブラウンの髪をひっぱったり、肩を叩いたり、腕を引いたりしている。  変に構うと家まで連れ帰ってしまう可能性もあるので、必死で無視しているが、うんざりする。    生まれた時から霊感が強く、ステラにははっきりと幽霊が見えている。そして運の悪い事にステラは憑依体質でもあり、幽霊に取りつかれやすい。  このことは家族と一部の人以外は知らない。友達のカレンにも秘密にしていたが、それが今夜は裏目に出た。 「カレン、私もう帰りたい」 「ダメよ。幽霊の卵を拾うまでは引き返せないわ」  ここはマカリィ王国の王都キュレネーの外れにある廃鉱だった。良質な魔石はだいぶ前に取り尽くされて、今は木々が生茂り、鉱山を覆いつくそうとしている。かつて鉱山の町として栄えたこの場所は廃れ、誰一人住んでいない。放棄された建物は倒壊し、重機は錆びて草に覆われている。  いつしかこの場所は心霊スポットとして有名になり、立入禁止の柵を越えて、多くの人々が訪れるようになっていた。  いつもならば絶対に近寄ることはないのだが、霊感ゼロの怖いもの好きな友だちのカレンに、半ば強制的に連れてこられてしまった。  カレン・クレードルは、心霊系の動画配信者として活動しており、今回も自分のチャンネルのネタになる動画の収録のためにこの心霊スポットへやってきた。  自分の勤めているお屋敷が心霊スポットの近くだったことが災いし、ステラは強引な誘いを断り切れなかった。   「幽霊の卵って、一体何なの? 幽霊が卵を産んだってこと?」 「都市伝説、知らないの? この廃鉱の坑道の奥に落ちていて、割ってしまうとその人を不幸が襲うんだって。どこから来たのか正体不明の卵が、心霊スポットに落ちているから、幽霊の卵」 「し、しょうもな……」
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