1.眠れぬ夜の始まり

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1.眠れぬ夜の始まり

「というか、何でここで寝るんだよ。 家に帰れよ、全く」 親友の川瀬由貴(ゆき)にどつかれても、 眠いものは眠い。 中学に上がってからというもの、 僕は常に眠気と戦っていた。 成長に伴う体質の変化? それとも、単なる怠けか? 自分でもよくわからない眠気の正体を 掴めないまま、中1の秋を迎えた。 川瀬とは小学4年からのクラスメイトで、 他の小学校から来たメンバーと比べても いちばんの仲良しだった。 初めてひとりでエッチなことをしたと カミングアウトしたのも川瀬だけだったし、 初めて僕に告白してきた女の子の存在を 知っているのもいつもそばにいる川瀬だけ。 親には話せない心の内を迷いなく話せる、 そんな相手だと思っていた。 「岸野、寝たのか?」 川瀬の部屋のシングルベッドに横になり、 しばらくして川瀬の少しハスキーな声が 聞こえたけど、その日も眠気に勝てなくて 僅かな時間で眠りに落ちていった。 だから、最初は夢を見ているのかと思った。 ベッドのきしむ音。 川瀬が僕を覗き込み、頬を撫でる。 それから息を殺して、僕に顔を寄せる川瀬。 そして、僕の唇は川瀬に塞がれたー。 ハッとして目を開けると、 目を閉じて僕にキスしている川瀬がいた。 マジか!僕、川瀬にキスされてる!! 唇はこじ開けられ、川瀬の舌が入り込む。 こんなキス、しちゃっていいの? 少し苦しくて、でも甘く切なく染みる‥‥ 川瀬は何故、僕に? 頭が混乱しながらも、慌てて目を閉じた。 長く深いキスの後、川瀬の吐息混じりの 声が響いた。 「何でこいつ、俺の前で無防備なんだ?」 再び、ベッドのきしむ音。 川瀬がドアを開けて部屋を出て行くのを 薄目で確認してから、僕は飛び起きた。 どういうことだ? 川瀬、神代さんという彼女がいるのに。 その夜、川瀬を思い眠れぬ時間を過ごした。
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