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Part 1
「雨ね……」
「そうだね」
「あなたと一緒のときは、いつでもどこでも雨……。雨ばっかり……」
「嫌なのかい?」
「そういうわけじゃないけど……。晴れているときにも会ってみたいわ、雨男さん!」
「ハハハ……、それはこっちのセリフだよ、雨女さん!」
雨は激しく降っているけれど、ここには雨音は届かない。
わたしたちは、二人並んで大きな窓から雲の動きを見つめている。
お決まりのやりとりをしながら――。
「この雨が、ずっと止まずに降り続けたらどうなるの?」
「たくさんの水たまりができるね」
「それでも止まなければ、水たまりはどんどん大きくなるわね?」
「そうさ。水たまりは、やがて湖や池や川になる」
「さらに降り続ければ、水が溢れて洪水が起きるのよね?」
「そして――、溢れた水は一つに繋がり、やがて海ができるのさ!」
どこまでも果てしなく広がる海。
わたしは、鏡のような水面の上に、浮かぶように立つ二人の姿を思い浮かべた。
彼は、窓枠にかけたわたしの手に自分の手を重ねながら言った。
「今、変な想像をしたんじゃないのか?」
「わかった?」
「ああ。ぼくたちが、海の上に立っているんだろう? まるで、男神と女神のように……」
「やがて、二人は、海を矛でかき混ぜて……」
「そして、矛からしたたり落ちた滴が、最初の島になる……」
「フフフ……」
その先の想像は、彼に任せる。
わたしは、黙って窓の向こうに広がる雲に目をやる。
「あっ!?」
「ん? どうした!?」
彼は、妄想に耽っていて、今、目の前で起きたことを見逃したらしい。
さっきの話の続きを、いったいどこまで想像したのだろうか?
わたしは、自由な手で窓を指さしていった。
「あのあたりで、何かが小さく光ったの。稲妻かしら?」
「どうかな? 確かに、その可能性もある……」
雷鳴ですら、ここには聞こえてこない。
彼は、窓辺を離れ奥の部屋へ姿を消した。
窓枠に置いたわたしの手は、熱を失いひんやりとする。
彼と会うのは、これで何度目だろう?
二人だけで、いろいろな場所へ出かけた。
でも、どこへ行こうといつも雨で、同じような記憶しか残っていない……。
それは、しかたがないことだ。
だって、わたしたちは――。
彼が戻ってきた。
少しホッとした様子で、たぶん微笑みを浮かべて――。
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