第三十ニ章 Hide and seek 二

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 兄弟や仲間は、いつも、あった出来事を匠深に報告していた。匠深は、常に笑って聞いていて、鬼殿を凄いと褒めた。 「俺達は基準がズレていたので、不安だった。でも、匠深に褒められると有頂天になった。いつも……いつも匠深に励まされて…………そして匠深は、全員を応援してくれていた」  褒められて鬼殿は、更に鬼殿になり、優れた人材に育っていった。 「だから、無理をしても、匠深の願いを叶えようと思った?」 「そう…………匠深がどうしても神社に行きたいと言った。匠深が我儘を言う事は、それまで無くて、叶えたいと思った」   それは、全員の思いだったという。  だが、そのせいで、鬼殿には匠深が見えなくなり、声も聞こえなくなった。 「……………………でも、匠深は立って歩いて、普通に生活していたのですよね…………?」 「うん、普通の青年に育っていたよ。二枚目で、かっこいい。それに知的だった。でも朽木には余り似ていなかった。朽木と幸助さんは、双子みたいだったのに」  朽木と幸助は、母親に似ていた。 「そうか…………それなら、いい」  例え姿が見えなくても、匠深が生きていて、元気ならばいいという。  匠深は、多分、俺と同じで、俺とは大きく異なる。  俺はこの界の同等の存在が死に、入れ替わってしまった。だが、匠深は肉体が死に、融合した鬼が意識を手放した。  だから、この界の匠深は、多分もう存在していないのだ。
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