第三十章 悲しみの鬼 五

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 安在は一つ一つの料理を食べて、かなり感動していた。 「とにかく、美味しい」 「ここの料理長は人気で、通っている客も多い」  料理だけならば、まだ予約も出来るらしい。だが、宿泊とセットになると、二年先まで予約が入っていた。ちなみに、二年先以上の予約は受付していないという。 「料理長に会ってみたい」 「それが、会わない人でね………………」  料理長は、あまり人と会おうとしないらしい。 「そうか、残念」  ここの和食を教えて貰いたかった。出来れば、厨房で見たかった。  だが、安在が料理長に呼ばれると、そのまま帰って来なかった。 「何だろう?」 「珍しい…………」  帰って来ないので、安在の分を食べておこう。  そして、食事が終ったので、景色を見て寛いでいると、やっと安在が帰ってきた。 「安在さん、食事は終わってしまいました」 「そんな時間ですね」  そして、料理長と何を話していたのか聞くと、和食についてだったと溜息を付いていた。 「………………ここも、鬼の場と重なっている。料理長は、朽木旅館の武郎さん、朽木さんのお父さんですね……その武郎さんの、従兄弟にあたるそうで…………」  つまりは、武郎が心配で様子を見に来て、そのまま調理人をやっている内に、料理長になってしまったらしい。 「ここの料理人と恋仲でもあり、もしも、鬼の場が閉ざされるのならば、二人で鬼のほうに移動したいそうです」  どこで、そんな噂が出たのか分からないが、朽木旅館には鬼が他にもいて、どっちに定住するかで迷っているという。 「相手は人?」 「そうなのです。若い料理人で、男性です」  朽木旅館の旧館は、ほぼ鬼の場のものらしい。  そして、場が重なっていると、分離した時に、どちらかの存在になってしまうらしい。 「料理長がいなくなるのは、困ります」 「それで、料理長が俺に料理を伝授したいと言ってきました」  どうして会ったばかりの安在に、料理を伝授しようとしたのか分 からない。 「まあ、料理長に会ってみて、理由が分かりました。彼は、同じ師匠の元で学んでいた事があります」
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