王女殿下のお願いを叶えてやりたい

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王女殿下のお願いを叶えてやりたい

 アルフレッド国王陛下の執務室で、王女殿下が泣いていた。  三人掛けのソファーの真ん中に座り、絹のような艶やかな金色の長い髪を垂らし、俯いて泣き顔を隠しているが、膝上に置く手の甲には絶え間なく涙が落ちている。王女殿下の名前はルイーズ、年齢は十八歳である。  一人掛けのソファーに座り、そんなルイーズに対面しているアルフレッド国王陛下は、顎に手をやり困った顔をしていた。 「ルイーズ、ライリーと結婚するのはそんなに嫌か?」 「はい、嫌です」  ルイーズは顔を上げた。紫水晶のような瞳が潤んでいる。  アルフレッド国王陛下の子供は、ルイーズ一人だけである。ルイーズの魔力量は半端なく多く、難度の高い魔術もなんなくこなすことから、他の王位継承候補者を近づけず、将来コンコルディア王国の女王になることが決まっている。  ルイーズの王配には、この国の筆頭公爵セグレイヴ家の長男ライリーに決まった。セグレイヴ公爵家は、アルフレッド国王陛下の大叔母が降嫁しており、子孫は代々魔術庁長官を務め家柄に申し分がない。  また、ライリーの魔力量もルイーズに僅かに劣るだけで、魔術の技術も高い。容姿はブラウンの髪、同色の瞳で、美形ではないが並みより上で、身長は平均よりやや高い。傍から見ればお似合いの相手に見える。 「なぜ嫌なのか理由を聞きたい」 「性格が悪いからです」 「ライリーは、どのように性格が悪いのかな?」 「私には優しそうに振舞うのですが、自分よりも魔術の実力が低い者や爵位の低い者には傲慢なのです。魔力量が少なく実技の成績があまりよろしくない生徒に、『役に立たねぇ奴だよな』と言ったり、爵位が低い生徒の座学のテストが良かったりすると、『たまたま良い成績が取れただけだろ。身の程を弁えろよ』というのです。それにとても…… こんな感じの生徒には」  ルイーズは、両手で色々な体型を手真似してから、 「『あんな体形の奴は僻みっぽくて性格良くないんだよね』と聞こえるように言うのです。ライリーと一緒にいると、私までそのように思っているのではないかと、他の生徒に誤った認識を持たれかねません。  それが嫌でわざと、私がライリーと離れて他の女子生徒といると、傍に寄って来て常に隣にいようとします。『あのご令嬢達の家は爵位が低すぎる。あの子は男爵家、あの子は騎士爵家、あの子は商家。ルイーズ様、ご自分の身分に相応しい爵位のご令嬢を友人に選ばなければいけませんよ』と言うのです。  市民に近い目線で語ってくれる彼女達の内容を聞くことは有用なことです。私は、爵位に関わらず生徒と交流をしてみたいのです。例えその方々が低い身分であっても、将来我が国を支えてくださるのですから、どのような考えをお持ちなのか知りたかったのです。それをライリーは邪魔をするのです。うざったい」  アルフレッド国王陛下はふむと頷いた。 「ライリーと結婚なんて嫌です。結婚すればあの嫌いな性格と生涯添い遂げなければなりません。子作りだってしなければなりませんでしょう? 私はライリーに触れられるのも嫌。ライリーが気に入らないことがあれば、密室で殴られることもあり得ます。ライリーとの婚約を解消させてくださいませ」  ルイーズは頭を下げた。  あと半年もすればルイーズは魔術学園を卒業する。今は卒業とほぼ同時に結婚式を行うように準備を進めているが、国王陛下の命令で結婚を伸ばせてもせいぜい半年くらいである。それ以上伸ばせば、セグレイヴ公爵家が黙っていないだろう。  愛娘のためになんとかしてやりたいとアルフレッド国王陛下は思案した。 「父上?」  ルイーズの上目使いと、アルフレッド国王陛下の目が合った。 「父に任せなさい」  アルフレッド国王陛下は何もよい策がないのに、愛娘を安心させたい思いからそのように言ってしまった。  それを聞いた、ルイーズの顔が明るくなった。 「父上ありがとうございます」 「ああ、いい結果がもたらされるように、ルイーズも祈っていてくれ」  アルフレッド国王陛下は優しく微笑んだ。 「父上ならば大丈夫ですわ。どんな問題でもよりよい解決をしてきましたもの。私、お傍で何度もそれを拝見しましたわ」 「そうか、今夜はもう遅い。よい夢を見られるように、おやすみなさい」 「父上こそ、御公務、あまりご無理をなさらないでくださいね。おやすみなさい」  ルイーズが執務室を出て行った後、アルフレッド国王陛下は大きく息を吐いた。  次の日、アルフレッド国王陛下は、執務室に侍従を呼び昨夜のことを話した。 「レギウス、何かいい策はないか?」  アルフレッド国王陛下は、書類に押印して底の浅い箱に置いた。 「そうですね……。婚約解消をするにはセグレイヴ公爵家に不正があるか、 魔力が無くなったとかでしょうね」 「セグレイヴ公爵家に不正か……。叩けば多少なりともあると思うが……。 それを調べて半年以内にわかるか?」 「無理でしょう」 「無理か……。ならば魔力を無くせるか?」 「魔力を0にするのは不可能でしょうね」  アルフレッド国王陛下は溜息をついた。 「このままでは私のルイーズが不幸になってしまう」 「そうですね。セグレイヴ公爵家は国王陛下の御前では大人しくしていますが、他の貴族には家柄を鼻にかけていると評判が悪いですからね」 「私はなんて男をルイーズの配偶者に選んでしまったのだろうか」 「ライリー様以外に家柄も魔力量も、王家に釣り合う方がいなかったではありませんか」 「国を治めるには、家柄と魔力が必要か?」 「家柄も魔力もセグレイヴ公爵家より低ければ、セグレイヴ公爵家派閥がなんと言いますやら」  国王陛下たるもの、貴族間派閥の均衡にも気を使わなければならない。アルフレッド国王陛下は頭を抱えた。 「レギウス、マジで何とかしてくれ~ じゃないと俺、ルイーズに嫌われちゃうよ」  情けない声で言った後、アルフレッド国王陛下は机に突っ伏した。 「ライリー様は卒業式の前日に、魔力量を量りに……、お得意の魔術をご覧いただくために王宮にいらっしゃいますよね?」 「ああ、これまで学んだことの集大成を見せびらかすために、な~」  最後「な」の語尾をわざと上げた。自身の不満をレギウスに悟らせるためにだ。ようは企みを早く出しやがれと急かしているのである。レギウスはすっとぼけた。 「国王陛下、そのような言いぐさは感心しませんな」 「そうかぁ~ このままでは仕事が手につかんな~ レギウス、何か浮かんだか?」  レギウスは不敵な笑みを片口角に浮かべ、姿勢を正し手を前で組んだ。 「我がデヴァルー家に逸材がおります」 「ほう?」  アルフレッド国王陛下は、上半身を起こした。 「アルフレッド国王陛下、ご協力くださいますね?」 「もちろんだよ」  アルフレッド国王陛下の微笑が両口角を上がらせた。
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