第1話 ある占い師との出会い 1

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第1話 ある占い師との出会い 1

それはアリアドネがアイゼンシュタット城へやってくる半月ほど前の話―― 午前11時―― エルウィンの執務室にスティーブの姿があった。彼は熱心にエルウィンに話しかけている。 「大将、陛下からの命令でカルタン族を撃破したんです。越冬期間まであと僅かですし、ちょいと『ラザール』の町に行きませんか? 今、あの町では年に一度のカーニバルが開かれているんですよ」 「カーニバルだと? お前、22歳にもなってカーニバルが見たいのか? 全くまるで子供だな」 エルウィンは剣を磨きながら返事をする。 「けれど大将。今回のカーニバルには異国の行商人が大勢やってきているらしいんですよ。この地域では滅多に口にできない珍しい料理や貴重なワインまで出回っているらしいんです」 「ワインだと?」 ワインに目がないエルウィンが反応する。 「ええ、そうですよ。エルウィン様、『ラザール』は日帰りでは無理です。御覧下さい。こんなに書類がたまっているのですよ? 遊びに行けるはずなど無いでしょう?カルタン族との戦いに時間を費やしてしまい、事務仕事が山積みなのですから」 シュミットは山のように積み上げられた書類を指さした。 「何⁉ シュミット! その書類の束は全てお前の仕事だろう! もう何度も言っているだろう? 俺はペンより、剣を握る方が得意なのだと! 大体俺は頭を使うのが苦手なのはお前がよーく知っているだろう!」 「開き直らないで下さい! エルウィン様はアイゼンシュタットの城主なのですよ! 城主である限り、事務仕事も出来なければならないのですよ!」 すると、エルウィンはグルリとスティーブを振り向いた。 「よし、決めた! スティーブ! すぐに『ラザール』へ出発だ! 今から出れば夕方前には到着するだろう!」 勢いよく立ち上がるエルウィン。 「よしきた! そうこなくちゃな! 大将!」 パチンと指を鳴らすスティーブ。 「何ですって! なりません! エルウィン様!」 「うるさい! どうせもうじき越冬期間で城に閉じ込められるんだから少し位自由にさせろ! 行くぞ、スティーブ!」 「はい!」 「お待ち下さい! エルウィン様!」 しかしシュミットの訴えも虚しく、エルウィンとスティーブは執務室をあっという間に飛び出して行ってしまった。 「はぁ……全く……」 力なく椅子に座り込むとシュミットはため息をついた。 (まぁ、これから来年の4月までこの城は雪に閉ざされる……カルタン族との戦いで休む暇も無かったし、少しくらいは多めにみてあげよう) そしてシュミットは1人黙々と書類に目を通し始めた。 ****  エルウィンとスティーブが執務室を飛び出して1時間後―― 二人はマント姿で馬にまたがり、城門前に姿を現していた 「よし、行くか。スティーブ」 「ええ行きましょう、大将。……しかし、本当に我ら二人だけで『ラザール』へ行くんですか? カルタン族との戦いで、他の蛮族達もピリピリしているという噂を耳にしましたぜ?」 「ふん、それで? 奴らが俺の首でも狙っているというのか? お前、俺が誰か分かって言ってるのか?」 エルウィンが鼻で笑う。 「ええ、勿論知ってますぜ?『戦場の暴君』と呼ばれた辺境伯エルウィン様じゃないですか」 スティーブもニヤリと笑う。 「ああ、そういうことだ。よし、行くぞ!」 「はい、大将!」 そして、二人は手綱を握りしめると『ラザール』の町を目指して馬を駆けさせた――
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