指定席

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そう、わたしは 3年生のあなたが好きで 手紙で告白しました 勇気をふりしぼり 付き合って下さいと手紙を書きました 小さな手作りのサッカーボールのお守りと 一緒に入れて渡しました みんなのあこがれの先輩だから その他大勢のひとりでしょうね それでも彼は丁寧に返事をくれました 「最後の大事な試合前で  いい結果を残したいから  今はそれしか考えられないので  ごめんなさい」 まぁ 当然の事だとは覚悟していましたが やっぱりしばらくはショックでした 勝手な片思いだったけど 私はサッカーをする人気者の あなたじゃなくて 素直にあなたという人を 好きになっていたから••• 食事も出来ず 悲しくて涙がぼろぼろ止まらなかった… 先輩のあなたは先に卒業して 念願のプロ選手になっていましたね 私にはサッカーなんてまったく興味は なかったけど、気づけば だんだんと遠い存在になっていました 今でも 憧れよりも大好きなあなた けれど、もう手の届かないところに いってしまいました 友達に誘われあなたの試合を観に行きました 2部リーグだけど沢山のサポーターが いましたね あなたは若手期待の選手、女性ファンも沢山いて みんなあなたの出待ちでいっぱい そんなファンのプレゼントに混じって 私も手紙を渡しました つらつらと高校生時代の思い出ばなし あなたには関係ない事だと思いながらも あこがれの先輩が活躍しているのは 誇らしく思います…のような事 その他大勢の手紙なんて読んでもらえるはずはない わたしの手紙はあなたに届くかしら クラブの人が整理するのかな… 1か月が経たない頃に手紙が入っていた まさかのあのひとからだった ファンに対するお礼の文 同郷への親しみもあったのか 指定席のチケットが同封されていました 親切過ぎるかなと思いながらも 私はその試合を見にいきました 試合は0対0まま残り5分の時 彼はゴールを決めガッツポーズ そして観戦しているメインスタンドの 私の前まで走ってきて 胸からあるものを出してこちらに向けました それは懐かしい見覚えのある あのサッカーボールのお守りでした もうボロボロでボールかどうかも 分からないようなものでした けど私にはしっかりと分かりました 私が恋した人に作ったものだから 忘れはしない 試合が終わり観客もいなくなっても 私はさっきの余韻に浸りながら その指定席にずっと座っていました すると 彼が来てドキドキしている私の横の席に座り 応援に来てくれてありがとう さっきのゴールで1部に昇格するからさ お守りのおかげで頑張れたよ ずっとお守りをしてくれたのですか? そうだよ、あの時はサッカーしか していなかったけど 好きな人からもらったお守りは ずっと俺の大切なものだった お守りと一緒で君の事はずっと 忘れたことはなかったから 手紙では「まだひとり」だって書いていたから 俺の試合を見て欲しくてね そんな事を書いていたなんて どこかで期待してたのかな… それとね このとなりの指定席はずっと空いていたでしょう 私はたしかにずっと空いてたから 「ハイ」と…… この席のチケットは俺が持っているんだ あの時の告白からずいぶん待たせたけど これからはずっと隣にいていいかな•• 私は信じられない言葉に小さく 「うん」と…… あの時とはちがう涙が止まりませんでした
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