知らされた片鱗

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「……そもそもね、あいつが寝室に他人を入れたって聞いた時、もう確信があったよ」 ゆったりとカウンターに頬杖をついて、浜崎さんが目を細める。 「……それがただの気まぐれで、キミを抱いたんだとしたら、俺はあいつの頭がイカれたんだって、心配しなきゃいけないねぇ」 「え……でも、」 混乱する僕に、浜崎さんがため息をついた。 「キミがどう思ってようといいけどさ……とにかく一回顔見せてやってよ、倒れて病院まで迎えに行かされるのは俺なの、面倒くさい」 もう言う事は無いと、浜崎さんが僕に手を振る。 さっさと行けって。 心臓がバクバクしていた。 浜崎さんに捕まらなくても。 多分夕方には会ってた。 新鷲さんのおツマミを作りに入るはずだったから。 ゆっくりドアを開けて中に入ると、新鷲さんはソファーに横になっていた。 ソファーから飛び出た足と、目元を覆った腕と。 ジャージの下だけ着た裸の胸は、浅く上下していた。 寝てるのか分からなくて。 でもさすがに何もかけずに寝たら風邪を引くと思った。 足音を忍ばせて、ベッドから掛け布団を持って近づいた。 眠りの浅すぎる人だから、そおっとと思って。 でもそれが肌に触れる前に、新鷲さんが動いた。 微かな衣擦れを拾ったのか、ぴくりと腕が動いて…ゆっくり目元から離れた。 「……」 「……」 僕を視界に入れた途端、腕が伸びてきた。 「うわっ、」 二の腕を掴まれて、ぐ、と引かれて踏みとどまる暇もなく前に倒れて行く身体。 硬い胸に思いっきり倒れ込んだ。 「な、にっ」 「梛」 もう、その名前を呼ぶ声だけで、僕の視界は滲んだ。 浜崎さんの言葉を、まともに信じてここに来た訳じゃなかった。 だけど、もしかしたらって……思える声だったんだ。 僕と一緒で、逢いたかったんじゃないかって。 そう、思ってしまう声。 「……梛」 「駄目じゃないですか……寝なきゃ」 さらりとした裸の胸に頬をつけたまま、僕は声が震えない様に囁いた。 「眠れねぇ……寒い」 裸で寝てて何言ってんだ、この人は。 だけど。 僕も寒かった。 「寝て、いいですよ」 胸が揺れて、新鷲さんの腕が深く僕を抱き込んだ。 「……仕事じゃないのか」 「……日雇いなんで、キャンセルします」 「……ん」 ふぅ、と深く息を吐いて。 新鷲さんはそれから、本当に眠った。 僕を逃がさないって言ってるみたいに、ソファーの背と自分の身体で僕を挟み込んで。 新鷲さんサイズで、少し座面が広いソファーでも男二人じゃキツキツなのに。 いつか浜崎さんが言ったみたいに、本当にことっと気絶するみたいに寝てしまった。 それだけ深く眠ってたら、多分僕が抜け出しても気付かないだろうけど。 僕はずっと、新鷲さんの腕に囲われてその寝顔を見てた。
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