共に歩む道

3/3
423人が本棚に入れています
本棚に追加
/79ページ
不思議な感覚だった。 自分が誰かのために何かをしてあげられたことが、なんだかむず痒くて、それでいて嬉しい気もする。 「……俺、やってみようと思う」 気がつくと誰に言うでもなくそう呟いていた。 「本当かい?嬉しいな~」 その呟きを拾って月白が笑みを浮かべる。 黒曜と紺さんの方を見れば、紺さんは俺に頷き返してくれて、黒曜は状況が飲み込めていないのか、ぽかんとした顔をしていた。そんな皆に笑みを返す。 「俺、頑張ってみる。皆のために俺ができることをしたいと思ったんだ」 「ふふ、緋色は頑張り屋さんで偉いね」 月白が俺のことを抱きしめてきて、慌てて恥ずかしいって月白の胸を押した。 「え~、悲しい」 「み、皆見てるだろ!」 「ぶー、いいじゃない。なんならお昼寝でもしようよ~」 「どこで寝るんだよっ」 ツッコミを入れると、月白が大樹の幹の方へと向かい始めて、慌てて月白へと着いていく。 「なにしてるんだ?」 「ここでお昼寝しようかなって」 「へ!?怒られるよっ」 「大丈夫だよ。ほら、息吹の大樹もいいって言ってくれてるよ~」 「そんなわけ……」 そう言い返そうとした瞬間、息吹の大樹の枝葉が影を作るように俺達の方へと降りてきた。 それに驚いていると、月白が幹へと背を預ける。 「ほら、緋色おいで」 手を広げて俺を呼ぶ月白の胸に、唸り声をあげながらやけくそになって飛び込む。瞬間、月白の香りと大樹から香る涼やかな香りが俺を包み込む。 「俺も行くっ」 月白が俺を抱きしめながら目を閉じると、それを見ていた黒曜が紺さんの腕から降りて、俺の右隣へと来てくれた。 月白の胸に頬を付けて、黒曜の方へと視線を向け、笑みを浮かべる。黒曜に呼ばれて、困った顔をした紺さんも来てくれて、俺達は4人で大樹の下に座り込んで笑い合った。 ああ、きっとこういうのが家族って言うんだって分かったんだ。 「皆、大好きだよ」 そう言って俺も目を閉じる。 この国に来て色んなことがあったけど、俺は今幸せだってはっきりと答えることが出来るんだ。 だって、俺はもう独りなんかじゃないから。 終わり
/79ページ

最初のコメントを投稿しよう!