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不思議な感覚だった。
自分が誰かのために何かをしてあげられたことが、なんだかむず痒くて、それでいて嬉しい気もする。
「……俺、やってみようと思う」
気がつくと誰に言うでもなくそう呟いていた。
「本当かい?嬉しいな~」
その呟きを拾って月白が笑みを浮かべる。
黒曜と紺さんの方を見れば、紺さんは俺に頷き返してくれて、黒曜は状況が飲み込めていないのか、ぽかんとした顔をしていた。そんな皆に笑みを返す。
「俺、頑張ってみる。皆のために俺ができることをしたいと思ったんだ」
「ふふ、緋色は頑張り屋さんで偉いね」
月白が俺のことを抱きしめてきて、慌てて恥ずかしいって月白の胸を押した。
「え~、悲しい」
「み、皆見てるだろ!」
「ぶー、いいじゃない。なんならお昼寝でもしようよ~」
「どこで寝るんだよっ」
ツッコミを入れると、月白が大樹の幹の方へと向かい始めて、慌てて月白へと着いていく。
「なにしてるんだ?」
「ここでお昼寝しようかなって」
「へ!?怒られるよっ」
「大丈夫だよ。ほら、息吹の大樹もいいって言ってくれてるよ~」
「そんなわけ……」
そう言い返そうとした瞬間、息吹の大樹の枝葉が影を作るように俺達の方へと降りてきた。
それに驚いていると、月白が幹へと背を預ける。
「ほら、緋色おいで」
手を広げて俺を呼ぶ月白の胸に、唸り声をあげながらやけくそになって飛び込む。瞬間、月白の香りと大樹から香る涼やかな香りが俺を包み込む。
「俺も行くっ」
月白が俺を抱きしめながら目を閉じると、それを見ていた黒曜が紺さんの腕から降りて、俺の右隣へと来てくれた。
月白の胸に頬を付けて、黒曜の方へと視線を向け、笑みを浮かべる。黒曜に呼ばれて、困った顔をした紺さんも来てくれて、俺達は4人で大樹の下に座り込んで笑い合った。
ああ、きっとこういうのが家族って言うんだって分かったんだ。
「皆、大好きだよ」
そう言って俺も目を閉じる。
この国に来て色んなことがあったけど、俺は今幸せだってはっきりと答えることが出来るんだ。
だって、俺はもう独りなんかじゃないから。
終わり
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