小説

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「――というお話を書こうと思っているんだけど」  僕は友人にお話しのあらましを語ったって聞かせた。  友人は水かきで嘴をかくしてクワククク、クワクククと、さも可笑しいというように笑った。 「ダメかなあ?」 「そりゃあダメさあ、いくらお話でもリアリティがないといけないよ。今時、河童だなんてえ」クワククク。  首に黄色のスカーフを巻いた友人は両手を嘴に添えてしばらく笑っていた。 「そうかあ」  僕はため息交じりに言う。 「それにそれじゃあ、最近きた彼の話と同じじゃあないか?」  友人がまだおかしそう笑いながら話す。 「そうかなあ?」 「そうさあ。だって彼は『昔、人間だったんだあ』って言っているだろう?」 「うん……。言ってたねえ。『人間』って僕たちとは違う『人間』だってえ」  僕はちょっと俯いて、そう言った。  クワククク。黄色のスカーフを触りながら友人はまた笑いだす。 「僕たちとは違う『人間』って何だろうねえ? 地上の人のことかなあ?」  僕は笑う彼に質問をした。 「そうなんじゃなあい?」  スカーフから手を離して答えてくれる。  地上の人間……。どんななんだろう?  全然、想像がつかないや。僕たちとは違うのだろうか?  ふう。と友人には聞こえないように小さく溜息を吐いた。  今度こそ、うまく小説を書けそうだと思っていたから。  友人の態度にガッカリしてお皿をかいた。 「いたあ」  お皿のふちがかけていて水かきが引っかかってしまった。 「あらら、お皿が欠けているねえ? 彼の所へ行くかい?」  友人が立ち上がって僕のお皿をのぞき込んで言った。 「そうだねえ、新しいお皿を作ってもらおう」  僕も立ち上がる。  キレイな深く暗く濃い黒い緑色のお皿が特徴的な、陶芸家の彼の元へと向かった。  (了)
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